「いくらエレンの頼みでもそれは聞けないよ!」
「頼む!」
「嫌だ!」
「頼むってば!」
「嫌だってば!」
「アルミン。私からも、お願い」
「ミ、ミカサ……ブレード持ち出して……何するつもり……?」

僕は今、大切な幼馴染み(の筈だった)エレンとミカサに脅されて、訓練兵の仲間である名前へのセクハラに加担することを強いられていた。

ここに来てからチラチラと名前を見るエレンを、僕は嬉しく思ったんだ。ミカサのことを思うと胸が痛むんだけど、故郷とお母さんを同時に失ってしまったエレンには、精神的な支えが必要だと思っていたから。

以前までのエレンと名前は、訓練兵の仲間として以外の接点は持っていなくて、ミカサも気にしてはいないようだった。
……でも……ある日、エレンは目覚めた。
名前に覚えていた気持ちを……鳥籠の中で育てられていた精神を……。

「あのさ、エレン……。いい加減にしないと本当に名前に嫌われるよ?」
「……? なんの話だ、アルミン?」
「だから、名前へのセクハラだよ……」
「セクハラなんてしたことねえよ」
「えっ?」
「別に、いつも挨拶くらいしかしてないだろ」
「えっ……」
「話を戻すけどよ、アルミン。さっき名前が風呂浴びに行ったんだけどさ、ほら俺ってなんでか知らねえが名前に嫌われてるだろ? 着替えが見たいんだがどうにも警戒されちまって……」
「ああやっぱり嫌われてたんだ……嫌われてるってよく気付けたね……」
「そこでアルミン、お前を頼ることにした」
「だから! ぼっ、僕は名前のことで君に協力するのは嫌だからね! ミカサにでも頼みなよ! だいたい、同期の仲間にセクハラをするだなんてエレン、君、巨人を憎み過ぎるあまりに脳ミソが縮まってしまったんじゃないの……」
「まあ最後まで聞けって!」
「…………ハァ」
「いいか? お前がさ、まず女湯で着替えるんだよ」
「エレン、僕先に部屋に戻ってるね。ミカサも、バレないうちにブレード返しておいた方がいいよ」
「まあ待てって!」
「ウッ! ミ、ミカサ! 離してくれ!」
「エレンが話してるから……」
「……で、そこに名前がやってきて着替え中のアルミンを見つけるだろ? 俺の予想だと『キャアー アルミン、サイテー! タスケテ、エレン!』って言うから、そこで俺がかっこよく飛び出すんだ。『アルミン! てめえ、見損なったぞ!』ってな。名前は当然『アリガトウ、エレン……ダイスキ!』って俺に抱きついてくるから……」
「うう……名前の物真似が本当に腹立つなあ……」

結論を言うと、ミカサの眼光に逆らうことが出来なかった僕は、エレンのセクハラに加担してしまうことになった。
きっと役立たずにしかならないだろうに。これで僕まで名前に嫌われるんだ……仲間に嫌われるだなんて憂鬱だ……死んじまいたい。

「よし! いいな、アルミン! 名前に着替えてるところを見せるだけでいいんだからな! 無理はするなよ!」
「アルミン、何かあればすぐに助けるから」
「う、うん……」

まるで名前が変態であるかのように言うエレンとミカサだけど……おかしいのはどう考えても君たちなんだからね?
僕、もう二人の幼馴染みやめたいって思ってきた……。

「この足音……名前だ!」
「……アルミン」
「わ、わかってるよ! はあ、もう、やるしかないんだろ……」

僕、この作戦(作戦だなんて大層なものとも思いたくないけど)が終わっても名前が僕を軽蔑していなかったら……夕食のパンを名前にあげるんだ……。こんなことで許して貰えるかはわからないけど、誠意は伝わると思うんだよね……。

せかす二人の視線に、着替えるそぶりをした。

「なにやってんだ! ちゃんと服を脱がなきゃ意味ねえよ!」
「うっ、わ、わかったよ!」
「じゃあよろしくな!」
「頑張って」

エレンとミカサは名前以外の人が来ないように、こっそりと脱衣所の外へと出ていった。
そして入れ違いになるように、名前が脱衣所へやってくる!

「きゃーっ!!」
「……またなの?」

エレンの予想と反して……っていうか反すに決まっていた名前の反応はあっさりとしたものだった。
静かに様子を見ていたエレンが、驚いた顔をしている。顔に「こんな筈じゃ……」と書いてある。
でもさ、そりゃあね、疲れもするよね……僕だってさっき二人の相手をしていただけで疲れたんだから。いつも倍の人数を相手にしていれば疲れも溜まるだろ。

でも……ところで一体これは……この不思議な感情は……?

名前に肌を見られたと認識したら、自然と漏れた悲鳴。
本当はそんな声あげるつもりじゃなかったのに、見られていると意識すればするほど体が火照って……。
ま、まさかっ……これは……嬌声……?名前に見られことで僕……興奮を……したって言うのか……?

「はあ……ごめんね……覗くつもりはなかったの……」

憔悴している名前が、荒れた目を床に向けながら僕に謝罪の言葉を向ける。
でも、名前。君は謝ることないんだよ、僕の方こそ謝らなくちゃいけないんだ……!だって……、

「い、いや……僕の方こそごめん……少し驚いただけなんだ」

だって僕は、僕は普通だったのに…君のせいで今目覚めた。






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