「喫茶珊瑚礁って知ってる? あそこのコーヒーめちゃウマでさぁ、あの葉月珪も行ったことあるって噂!」 「へえ、有名なところなんだね」 「ちっちっち……ところがこれが静かでいいところなんだなあ」 「そうなんだ! 行ってみたいなあ……」 「お? じゃあ今度いっしょに行っちゃう?」 「うん! 行きたい!」
佐伯くんと商店街を歩いていると、はば学の生徒がそう話しているのを耳にした。 となりの佐伯くんを見ると、耳まで赤くしている。
「ですってよ、マスターさん」 「ウルサイ。黙って歩けバカ」 「ふふ、素直に喜べばいいのに!」
彼お得意のチョップが飛んでくる前に、手を繋いでしまう。 得意気な顔をしたら「バーカ」と言われたけれど、握り返された手は優しくて、とても温かかった。
「ねえ、はやく帰ろう?」 「……なんで」 「もう、拗ねないの! なんか佐伯くんのコーヒー飲みたくなっちゃって」 「な、なんだ、そういうことか」 「佐伯くんの淹れるコーヒーも、佐伯くんのことも大好き」 「ばっ! バカ! こんな街中で、お前!」
あたふたと人目を気にするが、人通りが少ないことを知ると、佐伯くんは半歩開けていた距離を詰める。
「その……一回しか言わないからな」 「うん」 「二回は言わないからな!」 「はいはい」 「…………好きだよ、俺も」
そう耳元で囁く佐伯くんに、ちょっとした悪戯心で言い返す。
「残念でした! 私の方が佐伯くんのこと好きだもん!」 「なっ! お、お前な……!」
どちらがより好きかどうかで揉める私たちを、はば学の生徒が微笑ましげに見ていたことは佐伯くんには黙っていようと思います。
2013 0719 Happy Birthday!
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