名前はおろしたてのワンピースを身に付けて、遙達よりも一足早く家を出た。
もうそろそろ夕陽も落ちて、空は暗くなるだろう。 暗くなる前に待ち合わせ場所に着いておきたいと、歩みを進める。
「あ……七瀬さん……」
「……? ひゃっ、わっ! あ、ええと、こん、こんにちは!」
自分の苗字を呼ばれ振り返ると、同じクラスの生徒が本を片手に立っていた。 今日、名前が消しゴムを拾って渡したその人だ。 名前は思わず体を強張らせた。
彼は彼で名前の名前を声に出すつもりはなかったのか、気まずそうに口に手をやっている。
「ええと、どうも……」
「う、うん」
「出掛けるんですか? こんな時間に……」
「えっ!? ご、ごめんなさい!」
「あっ、いえ、そんなとがめる訳じゃなくて! 暗くなると危ないと思いまして……」
「あ……そ、そう、そうだよね。心配してくれて、ありがとう」
「……っいえ! それじゃあ、僕はこれで!」
「は、はい! さよう、なら……」
いきなり駆け出したかと思ったらある程度の距離でピタリと止まり、名前の方を振り向く。
その行動にあまりに勢いがあったので名前は小さく声を漏らし盛大に怯えた。 が、彼はそれに気付かず、夕陽に照らされた顔で名前に声を掛ける。
「僕は、竜ヶ崎怜と言います!」
「えっ?」
「また、明日!」
「う……うん! また明日、竜ヶ崎くん!」
──なんだか、竜ヶ崎くんとお友だちになれそう……?
名前の心は、凛に会う前に晴れやかになったのであった。
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