久々に出会った元同じスイミングクラブの三人は、やはり水泳の話に花を咲かせている。

名前はと言えば、携帯を見つめることに忙しい。



凛が帰国したあの日以来、名前と凛が会うことはなかった。
約束を取り付ければ会えたはずなのだが、どうにも交わすメールの節々で「会えない」と凛が思っていることに気が付いた。

やはり荷物の片付けや、久々に会った家族との時間とか、色々とあるのだなと名前なりに納得したので、無理に会おうとも思っていなかった。
それに、凛はここ岩鳶高校に転校してきていると考え、学校が始まれば毎日会えると思ったからだ。

遙は凛の話題を避けているようにも見えたし、後でこっそり、真琴に凛は居たか訪ねるつもりだったのだが……、渚との再会ですっかり頭から抜けてしまっていた。

いつ聞こういつ聞こう、とそわそわしているところ、携帯が震えたのだ。
それが凛からのメールだった。

──今夜19時、あの駅な。

たった一行だけ。それでも名前には、どんな宝石よりも輝いて見えた。


「ねえ、そういえば知ってる?」

「なあに?」

「僕たちが小学校のときに通ってたあのスイミングクラブ、もうすぐ取り壊しになるんだって」


遙はいつも無愛想な顔に驚きの表情を映す。


「そうなんだ……。寂しいね…… 」

「だよね! だからその前に、みんなで行ってみない?」

「あれを掘り起こしに?」

「そう!」


真琴の言う“あれ”とは、小学校最後の大会でとった、遙、真琴、渚、そして凛の、四人の思い出であるトロフィーのことだ。
名前は照れ臭そうに凛と微笑む遙のことをよく覚えていたので、名前にとってもそのトロフィーは思い出の品だった。


「今夜さ、みんなでこっそり忍び込んで……」

「こ、今夜?」

「行くなら勝手に行け」


七瀬兄妹の声が重なった。
名前の声は言わずもがな凛との約束があるからだ。
そして遙は遙でまた頑なで、渚がいくら遙を説得しようとも、行かないの一点張りである。
そこに真琴が助け船を出す。


「折角だし行ってみようよ」

「嫌だ! めんどくさい!」

「でも行けばプールもあるよ?」


遙がぴくりと眉を上げる。
流石というべきか、幼馴染みの真琴は遙の扱いを心得ていた。


「……ハルちゃん、ちょろいね」

「しーっ! ナギちゃん、聞こえちゃうよ!」

「聞こえてる。いいから早く行くぞ」

「あ、あの! ごめんね! 折角なんだけど私は、今夜は……ちょっと用事が……」

「用事? なんで」

「なんでって……なんでも」

「ええー! 名前ちゃん来れないの!?」

「残念だけど……でも、女の子が夜に廃墟って危ないしね」

「……まあ、そうだな」

「ごめんね遙、二人とも……。私の方が早く帰ったら、晩御飯に鯖焼いておくからね!」

「また鯖!?」

「いや、いい」

「そ、そうだよな。 さすがに一日に二回も鯖は……」

「俺が行く前に焼いておく」


ハルちゃんってば鯖大好きだね!
という渚の声が、階段の踊り場に響いた。






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