「名前せーんせいっ!」

暇潰しにと、小松田の仕事である門前の清掃をしていた名前のもとに生徒が駆け寄ってきた。
嫌ににこやかで、見る者によってはなにかを企んでいるとしか思えないのだが、名前に近寄る生徒の大体は実際に何かを企んでいるので、さして気にもせず対応する。

「やあ、君は優柔不断が玉に傷の五年ろ組不破雷蔵くん……」

しかし感じた違和に名前はハッとし、言葉を濁らせた。
かわいらしく媚びるように微笑んでいる少年は、上級生にしては大人しく名前の言葉を待っている。

「……いや、彼は私を真庭名前先生と至極丁寧、他人行儀に呼ぶのだから君は不破雷蔵に変装している鉢屋三郎だな?  いや、いや待て、彼は彼で私を親しげに名前、とも、せーんせいっ! とも呼びはしない。そういえば私は彼の声を授業以外で聞いたことがないなぁ……。そうかわかったぞ! 君は真庭忍軍十二頭領が一人真庭蝙蝠か!」

「……わかるまでが長いんだよ」

「いやあすまない。 はて、なんの用だ?」

違和感の正体がスッキリした名前がいつもの調子を取り戻すと、蝙蝠は不破雷蔵の姿を骨格から変え、そして今度は同組の竹谷八左ヱ門へと変身した。
しかしどんな顔をしていてもいつも爽やかさを感じる彼だったが、今目の前にいる彼はどうも悪どい感じがする、と名前は心中思った。

「きゃは!名前がちゃんと仕事してるか、こうして見に来てやったんじゃねえかよぉ」

「そうか、ちゃんと仕事しているぞ。今も怪しげな侵入者を排除しようと……」

「ま、待て待て!ちゃんと許可もらって入ってきたっつーの!」

「それはすまなかった。小松田くんは今日も元気にどじをしていたか?」

「……ばらけた書類集めを手伝わされた……」

余程大変であったのだろう。
竹谷の姿をした蝙蝠はがっくりと肩を落とし、 小松田への恨み言とも心配事とも取れるぼやきをしている。
それに一つ一つ頷き返していると、チラリと名前を見ては「お前は頑張っているよ」と溢した。

「あいつ、いつもあんな調子なわけ?」

「小松田君はそれが個性なのだよ」

慰めと励ましの気持ちを込めながら肩に手を置けば、はあ……と大きく溜め息をついた。







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