二十分の恋 | ナノ

七日目






青学と×××女学院は場所が近いというのもあって、昔から交流がある。と言っても、交流があるのは高等部だけなのだが。

「おはよう」

今日も昇っていく白い息を眺めている彼女に声をかけた。

「おはよう。…今日も部活?」

今日は冬休み前最後の練習試合になる。

「うん。そっちは委員会?」

スクールバッグと、書類が入ってるのであろう茶封筒を手にする彼女に問いかけた。

「学校のお使いと私用、かな」

走ってくるバスを見ながら人使いが荒くて、と困ったように笑った彼女にご苦労様と言う。
バスに乗った彼女は自然な動作で隣を空け、僕も彼女の隣に座った。その日は老婆は乗って来ず、僕と彼女だけを乗せバスは発進した。

「…あの、今更なんだけど…青春学園の生徒さん、であってるよね?」

バスが発進して少し経った頃だろうか。彼女はおずおずといった様子で聞いてきた。

「うん。中等部の、だけど」

「そっか、良かった…あのね、私用の方なんだけど、父から預かりものをしてて竜崎っていう先生に届けなきゃいけないんだけど…」

恥ずかしそうに視線をさまよわせる彼女に、案内しようかと聞く。

「いいの…?」

「僕でよければ、だけど」

嬉しい、ありがとうと微笑んだ彼女につられ僕も微笑んだ。

「あと出来たら校長室にも案内してくれたら…」

「ふふ、いいよ」

花が綻ぶように、とはよく言ったものだと思う。嬉しそうに笑った彼女はまさに花が綻ぶような様だった。

≪次は×××女学院前ー、次は×××女学院前ー≫

車内アナウンスを聞いて咄嗟にボタンを押そうとする。

「…あ、ごめんなさい」

目の前でボタンを押そうと伸ばされた手を掴んだ。
白く綺麗な手は、思ってたよりずっとさわり心地が良い。
引こうとする手をぎゅっと握り、彼女の黒目がちな瞳を見た。

「僕も、今更だけど聞いてもいい?」

きょとんとした彼女に苦笑をこぼし、続きを言う。

「名前、教えてもらってもいいかな」

そう言うと、はっとしたように彼女は顔を赤くした。

「私、もしかして名乗ってなかった…?」

「うん、残念ながら」

≪次は青春学園前ー、次は青春学園前ー。次で終点となりますー≫

握った手をそっと放す。

「えーと…×××女学院高等部二年の、越前結子、です」

二つ上か。越前という名字にあれ、と思うも、僕は…と言ってすぐ、彼女は知ってるよと言った。

「青春学園中等部三年の不二周助君、だよね」

「知ってたの…?」

驚き目を見開く。怒ったと勘違いしたのか、彼女は目を逸らしてから小さく頷き弟に教えてもらったと言った。

「弟、テニス部員だから…気を悪くしたら謝るよ」

「いや、それは構わないんだけど…その弟さんって、」

そう言ったところでバスが止まった。
二人でバスを降り、門をくぐる。

「…ねえ、越前さんの弟さんてもしかしてリョーマって名前?」

先程から気になっていた事を聞いてみた。

「うん、不二君知ってるの?」

「部活の後輩だよ」

同じレギュラーだしね、と告げれば彼女は驚いた顔をした。

「そっか…ふふ、あの子何でも直球だから誤解されやすいでしょう?」

荒井の件を思い出して素直に頷く。

「でも、根は凄く良い奴ですよね」

そう言うと、彼女…越前さんは少し考えるような顔をしてから聞いてきた。

「不二君は、あの子のこと越前って呼んでるのよね?」

そうだけど、と言うと彼女は少し笑って自分は名前でいいと言い、敬語もいらないと言ってきた。

「それじゃあ僕も名前で呼んで?」

「いいの?」

うん、と言ったところで彼女をどう呼ぶか迷ってくる。
流石に呼び捨ては許可を取った方がいいかもしれないから、結子さん?結子ちゃん?

「周助くん、どうかした?」

「結子…さん?」

流石に呼び捨てしてもいいかなんて聞けない。ちゃんだと年下のような感じがしてしまうからさん付けで一応は落ち着いたが。

「ふふっ…周助くん、普通に呼び捨てでいいよ」

どうやら彼女の方は違和感があったらしい。

「それじゃあ遠慮なく」

行こうか結子、と言うと彼女は少しだけ恥ずかしそうに頷いた。









七日目

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