二十分の恋 | ナノ

六日目






今日は珍しく、彼女はバスが来てからバスに乗った。
僕はいつもの一番後ろに座り、老婆もいつもの一番前に座っている。ただ、今日は彼女がいつも座っている席に会社員と思われる男が座っていた。
自分がいつも座る席を見てからどこに座るか悩むように視線をさ迷わせた彼女に手を振る。
空いている席は沢山ある。それが逆にどこに座るか悩む原因になっているのだろう。

「隣、座るね」

微苦笑を浮かべた彼女にどうぞ、と言った。
会話という会話は特にない。というのも、彼女が眠たそうにしていたのもあるが。

「――…」

彼女の肩が僕の腕に触れる。
バスが発進してからしばらくして、彼女は余程眠かったのか船をこぎ始めた。

「肩、貸そうか?」

微笑混じりに言う。
まばたきを繰り返す彼女が可愛くて、つい口から出た冗談のつもりだった。

「ん…ごめ、」

ごめん、と言うつもりだったのか。言葉は途中で途切れ、肩に重みを感じた。
シャンプーの匂いだろうか。微かに彼女から香ったその匂いに、心臓が早くなる。

「っ…」

バスの揺れで彼女の頭が後ろに倒れた。それに合わせ、肩を背もたれに預ける。
思ってたより長い睫毛。穏やかな寝息を立てる彼女の唇に思わず目がいき、どきりとした。
すぐに視線を下に落とすも、マフラーの隙間から見えた白い首筋とスカートから覗く黒いタイツに包まれた足が目に入る。

≪次は×××女学院前ー、次は×××女学院前ー≫

どれくらい硬直していたのだろうか。気がつけば彼女が降りるバス停が近かった。

「……、」

起こそうとしたところでまだ彼女の名前を聞いていなかったことに気がつく。

「…起きて、もうすぐ着くよ」

そっと彼女の肩を揺する。一瞬びく、と反応した彼女はすぐに飛び起きて慌てたように謝ってきた。

「ご、ごめん私重かったよね…!」

「むしろ軽かったよ」

その慌てように煩かった心臓が少し落ち着いてくる。

「昨日といい、本当にありがとう…!」

顔を赤く染めた彼女は逃げるようにバスを降りていった。
その姿に笑みがこぼれ、愛しさを感じる。
バスが彼女の前を通り過ぎる時、いつものように手を振ると、彼女は恥ずかしそうにしながらも手を振り返した。








六日目

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