二十分の恋 | ナノ

一日目




徒歩通学からバス通学に変えてから3ヶ月が過ぎた。初めてバスで登校したのは半年前、部活の練習試合の時だった。その時僕は彼女と出会い、多分、一目惚れをしたのだと思う。今でもその時の事を鮮明に覚えている。
青学とは違う黒いセーラー服に革のスクールバッグ。綺麗に結われた二つ結びの黒髪が窓から入った風に揺れ、伏せ目がちな瞳は窓の外の遠くを見ていた。雰囲気からして、多分年上だろう。
不思議と彼女を見ていると心が落ち着いて、次にはその姿をフィルムに収めたいと思うようになっていた。風景しか撮らない、この僕が。彼女を被写体として、永遠に写真の中に閉じ込めてしまいたかった。
元から人の少ないバスだから、撮ろうと思えばこっそり撮れた。でもその時の僕は何か彼女に一言話しかけたいと思っていたから、多分、本当は写真を切欠に彼女に話しかけたかっただけなのかもしれない。

≪次は×××女学院前ー、次は×××女学院前ー≫

何時も一番前に乗っている老婆がバスの横を通り過ぎた。ああ、もう次で彼女が降りるバス停に着いてしまう。
夏休み明けからバスで登校し始めて、もう3ヶ月が過ぎた。彼女はその間、黒いセーラー服を着ていたが先月からその上に同色のオーバーコートを着始め、今日は白いマフラーを首に巻いている。
×××女学院前と書かれたバス停が見えてきた。慣れた手つきで彼女がボタンを押す。徐々にバスの速度が落ち、完全に停車した。

≪×××女学院前ー、×××女学院前ー≫

バス定期を運転手に見せ、結われた髪を揺らし軽やかにバスのステップを降りる。彼女は、近くの横断歩道で止まった。
バスは発進し、彼女の前を通り過ぎる。

≪次は××団地前ー、次は××団地前ー≫

一瞬見えた彼女の表情は、僕が毎朝見ているものと同じだった。








一日目

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