二十分の恋 | ナノ
十日目
竜崎先生のおかげで彼女と沢山触れ合え…じゃなくて、アップが出来たのが一時間くらい前で。彼女が越前に見つかって、最初から知らされていた手塚と海堂は別としてそのままなし崩しで新旧レギュラー陣に見つかって自己紹介をしたのが数十分前で。
「お疲れ様、周助くん」
他校との練習試合。僕が出たのはシングルス3だったから、一番先に試合が終わった。
「ありがとう、結子」
受け取ったタオルで汗を拭く。結果は勿論僕の圧勝だった。最初は軽い気持ちでやるつもりだったけど、結子に負けるなんてかっこ悪い所見せたくなかったからつい本気になってしまった。
どうせなら試合前に、この試合に僕が勝ったら話したい事があるんだ、とか言えばよかったな。何かフラグが立ちそうな台詞だけど一度くらい言ってみたかった。
「周助くん本当に強いんだね」
流石姉弟、と言うべきか。きらきらと輝く瞳が越前そっくりだ。
「ふふ、勝ったら何かご褒美くれるかなーって思ってね」
頑張っちゃった、と言うと、くすりと微苦笑を零した。
「ご褒美ね…私、何も持ってないよ?」
寧ろ持っていたら僕が困る。
「いいんだ…そうだなあ」
メアドか、デートの約束か。
メールから仲良くなるかデートで一気に詰めるかのどちらかだな。さて、どうやって攻めようか。
「ちょっと不二先輩ー!人の姉貴勝手に口説かないで下さい!!」
シングルス2のコートから越前の叫ぶ声が聞こえてきた。
「あの子ったら…リョーマ!試合に集中しなさい!!」
こっち、と言うか僕を睨んでた越前は慌てて前を向いてサーブを打った。ボードを見ると越前が勝っている。残りはもう1ゲームしか残ってない辺り、僕の邪魔をしようとスピードを上げてるな。
「ごめんね周助くん、あの子が変なこと言って…」
越前にもバレてるならもうデートでいいか。
「結子、ご褒美は僕と―――」
勝者、青学越前!という審判のコールの直後、風を切ったボールが一直線にこっちに飛んでくる。
「っ…!!」
「―――デート、してくれないかな」
突き飛ばした方が安全だったけれど、咄嗟に抱き寄せてボールは回避した。腕の中でぽかんと僕を見つめる彼女は凄く可愛い。
「うわぁっ…?!」
いい雰囲気になった所で、叫び声を上げながらボールが飛んでいった植え込みの影から英二、乾、大石、桃城が飛び出してきた。
「こらおチビー!危ないだろぉー!!」
「先輩たちまた覗き見してたんスか」
ラケットを担いだ越前がやってくる。まずいな、彼は一番の強敵だ。
「…で、僕とご褒美デート、してくれるかな」
少し放心状態の結子に優しい問いかける。
「え?でもそれご褒美…?」
「うん。僕はご褒美だよ」
それじゃあ、是非、と顔を僅かに赤くして言った結子に越前が今まで見たこともないような衝撃を受けたような表情をした。
「ちょ、姉貴!!?」
「そうだ、リョーマ!人に向けてボールは打っちゃ駄目って言ったじゃない!!」
顔が赤くなったまま、はっとしたように越前に叫んだ。
「まあまあ、お姉さん落ち着いて…」
「じゃあ姉ちゃん俺ともデートしてよ!!」
「何がじゃあよそれよりあんた桜乃ちゃんにお弁当のお礼言ったの!?」
普通にスルーされた大石は英二に励まされている。
「…それじゃあ、僕と結子、越前と竜崎さんでダブルデートはどう?」
仲が良いのか悪いのか、多分いつもは仲が良いんだろうけれど、ばちばちと火花を散らす二人に苦笑しながら提案した。
「まあ、姉貴と先輩が二人にならないなら…」
「桜乃ちゃんが一緒なら安心ね」
「日時は竜崎さんと二人が空いてる日でいいから、決まったら僕にメールしてね」
さり気なく結子にメアドを書いた紙を渡す。越前は照れ隠しからこっちを見ていない。
「……、」
二人はやっぱりどこか似ていて、少し羨ましくなった。
十日目
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