二十分の恋 | ナノ
九日目
「どうだい、このまま部活の様子でも見ていきなよ」
書類も渡し、竜崎先生の用も済ませ帰ろうとした彼女を竜崎先生が引き止めた。
「…え、でも…」
竜崎先生から何故か目配せされ、彼女と一瞬目が合う。
「せっかくだから、見ていきなよ」
午後からの練習試合は見ないで帰ろうと思っていたら、偶然一人インフルエンザで休む事になり代理で試合に出ることになったから。結子に、見ててもらいたい。
なんて彼氏紛いなこと言えるわけもなく。
「君の弟も出場するし、ね?」
本音は隠し、そう伝えると竜崎先生が何かを結子の耳元で囁いた。
「…じゃあ、見ていってもいい?」
微かに頬を赤く染めた彼女が伺うように僕を見る。
「もちろん。あ、竜崎先生手塚にも言った方がいいですか?」
それから新部長の海堂にも。
「ああ、二人にはあたしが伝えとくよ。…練習試合までまだあるね、そうだ結子」
「何ですか?」
「お前さん不二のアップ手伝ってやりな」
にやりと笑う竜崎先生にまた彼女の顔が赤くなった。突然の事で僕まで少し赤くなってしまったのか、顔が熱い。
「わ、私がですか?!」
「僕の手伝いは嫌?」
荒げられた声に、咄嗟に聞いてしまった。
「う…嫌じゃない、けど…」
恥ずかしそうに赤らめられた頬に、どうしても淡い期待が募る。
何でもない男、しかも年下にこの反応はなかなか見ないし。
「けど…?」
「…周助くんがいいなら、手伝うよ」
少なくとも、脈無しではなさそうだ。
「それじゃあ、頼むよ」
そろそろ、本気でいこうか。
九日目
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