二十分の恋 | ナノ
八日目
土曜日ではあるけれど、部活や委員会などで学校にはそこそこ人はいた。
「なんか、凄く見られてるね」
全国大会で優勝した部活のレギュラーが他校の見知らぬ女子生徒と楽しげに歩いていたらそれはどれだけ地味でも注目されてしまう。
流石にその視線の数には僕も引いてしまったけれど。
「なんか、ごめん」
テニスコートに近付くにつれ騒がしさも増していく。越前が彼女のことを隠していた理由が何となく解るのもあるけど、僕自身も出来れば彼らには見つかりたくない。
「…ちょっと走ろうか」
「え…わっ!」
結子の手を握って走り出す。
幸い、後輩指導をしている彼らはまだこっちに気がついてない。
「辛かったら言ってね?」
「う、うん…!」
思ってたよりしっかり走っている。手を握っていたいのもあるから、あまりスピードは出せないけれど。
「あーっ!!」
後ろから聞こえた英二の声に思わず舌打ちをこぼす。
「不二が女の子の手ぇ握って走ってるにゃー!!!」
その一言でさらに視線が増えた。
「余計なことをっ…!」
後で覚えてろ、と内心で呟きながら後ろの彼女を盗み見る。
「ごめんね、周助くん」
私のせいだよね、と眉を下げて言った彼女に微苦笑した。
「…僕の、我が儘なんだ」
正面玄関に入り、走る速度を落として止まる。
結子を独り占めしたかったから、なんて告白紛いなこと言えるわけがない。
「…?」
「いや、何でもないよ」
とにかく結子は何も悪くないよ、と言うとありがとうと返ってきた。
「先に校長先生の方がいいよね?」
「うん。案内お願いします」
彼女が微笑しながら頭を下げる。
側にあった校内地図にはお互い見ないふりをして、廊下を歩き出した。
「………、…校長室はここだけど、アポとかそういうの大丈夫?」
職員室の手前にある校長室の前で立ち止まる。
「うん。うちの校長が連絡したから直ぐに渡していいって言ってたし…」
だから大丈夫、と言おうとして別の声に遮られた。
「おや、結子かい?」
後ろから聞こえた竜崎先生の声に二人揃って振り返る。
「おはようございます、竜崎先生」
「お久しぶりです、竜崎先生」
同時に言った台詞に竜崎先生は驚いた後、豪快に笑った。
「はっはっはっ!アンタ達随分仲良くなったみたいじゃないか!!」
「えっ?!あ、いや…これはあのっ」
顔を赤らめおろおろとする彼女に思わず期待してしまう。
「そこまで恥ずかしがらなくてもいいだろうに…そうか不二だったかあ…」
にやにやと笑い始めた竜崎先生に首を傾げた。
「…?」
「そういえば不二、お前さん結子の手を握って走ってたそうじゃないか」
とんだ飛び火だ。顔が真っ赤になってショートした彼女から竜崎先生の標的が僕に移ったらしい。
「それは、その…」
独り占めしたくて見つかりたくなかったなんて、彼女が好きだと言ってるようなものだ。
「泣かせたらただじゃおかないよ」
一瞬、竜崎先生の背後に般若が見えた気がした。
八日目
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