短編 | ナノ

沢田家長女 62


  ×××

 しんとした沈黙が辺りを包む。
「ーークイーン?」
 黒い炎の放出は止まり、遥か頭上に顕現した歯車は徐々に回転を止めていく。
「高エネルギー反応消失。……ボンゴレの姉の炎圧も低下している。止まった……のか?」
 計器で観測をしていたスパナが声を上げた。
 雲雀の腕に抱かれた彼女の身体はぐったりと脱力して、完全に停止しているのが見て取れる。
 白蘭は深く息を吐き額に手を当てた。全てがひっくり返された状況に、次第に笑いが込み上げてくる。
「は、あははっ……! まさか、本当に止めるとはね……おかげで今までの苦労が、全部ぱぁだよ!」
「白蘭さん! もういいでしょう、貴方の負けだ!」
 止まってくれと、入江は願いながら声を上げた。
 限りなく純度の高い夜の炎でのみ、白蘭の夢(トゥリニセッテ)は起動する。それが防がれた以上、白蘭が打つ手はもうないはずだった。
「いいや、正チャン。起動はできてる。顕現は解かれていない。なら当然、僕はまだ止まらない」
「まだ何かあるのか!?」
「やっぱり、正チャンの言う通りだったね」
 誰に言うでもなく、白蘭が囁く。
「……白蘭さん?」
「誰にも任せられない。仲間なんていらない。その通りだった」
「待って、白蘭さん一体何のことを言って……」
「……あれ? この世界の君じゃなかったか。でも、もういいや。僕は、作るべきじゃなかったんだ、だからーー僕が、全知全能の神になってやる」
 白蘭は笑ってそう言うと、指輪に炎を灯した。
 途端に身体が光を帯びる。
 白蘭の修羅開匣。空を染める黒い炎に包まれた彼女と対照的に、炎に包まれた身体は帯電したように輝くと、その大きさを増していく。
「なんだ、あれは……!」
「光の巨人……!?」
 見上げるほどにまで成長した白蘭が、宙へと手を伸ばす。その先にあるのは回転を止めたトゥリニセッテの真体だ。
『君達は有効利用させてもらうよ。大丈夫、またすぐ会えるさ。新しい世界でーー』
 白蘭の光体から次々に手が伸びていく。それらは一際膨大な炎を纏っていた真六弔花を初めに捕まえると、瞬く間に炎を吸い上げていく。
 声を上げる間もなく干からびた身体から手を離すと、さらに周囲へと手を広げた。
 マーレリングに適合して以降変質しているが、白蘭本来の能力は炎の吸収と共有である。
 彼はその能力でこの場全員の炎を吸収し、膨大な炎をリソースとして、沢田名前に代わり自身の精神を転送させようとしていた。


20240114

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