短編 | ナノ

沢田家長女 63


もしもヴァリアーに引き取られていたら

 ◇

「結局、ヴァリアー側の雲の守護者って誰なんだろう」
 綱吉は不安気に呟いた。
 集合時間は迫るが、雲雀も相手も姿を見せない。初めはモスカと呼ばれた機械(ひと)だと思っていたが、どうやら違うらしい。
 今まで一度も姿を現さなかった相手への不安と警戒で、いやに胸がざわめいて落ち着かない。
 これも超直感の一つなのだろうかと、綱吉はそわそわと落ち着きなく辺りを見渡した。相手以前に、雲雀が本当に来てくれるのかという不安も大きかった。
「さぁな。だが、こっちはあのヒバリだ。お前はボスらしくアイツの勝ちを信じてろ」
「……うん」
 肩に飛び乗ったリボーンの珍しく柔らかな声に、綱吉は小さく頷いた。

 ×××

「それで、誰を咬み殺せばいいのかな」
 雲雀が不敵に笑った。
 ちら、と見上げた先にいるのは、豪奢な椅子で踏ん反り返って寛ぐ男だ。あわよくば敵の総大将を仕留めたいと、鈍色の目に挑戦的な光が宿る。
「はっ……余程自信があるらしい」
「ヒバリはうちのエースだからな」
 スクアーロを倒した男の言葉に堪らずザンザスの唇が歪んだ。
 ならば、己の采配は間違いではなかったのだろう。
 彼は自ら選び雲の席を授けた守護者が負けるはずがないという、絶対的な自信があった。それは勝って当然という驕りではない。敗北は死と同義である、その覚悟と執着への信頼だ。
 綱吉にとって雲雀恭弥が最強の守護者であるように、ザンザスにとっても彼女こそ、勝利を託すに相応しい人物だった。
 ゆっくりと開かれた紅玉が、すぐ傍へと意識を向けた。
「ニュクス」
 声と同時に、ザンザスの後ろに広がっていた夜の闇が揺らめいた。
 途端に綱吉の背に悪寒が走る。
 王の声に応じるかの如く深更の闇の中から現れたのは、一人の少女だった。
「ーーここに」
 甘やかに響く声は、けれど氷のように冷ややかだ。その冷たさは、肌を刺す冬の妖精の息吹にも似ている。
 マーモンのようにフードを目深く被っているが、余程顔を見られたくないのだろう。フードから覗く白い肌の大半は、その下に装着した黒い面で覆われていた。
「あの人が、ザンザスの……」
「ニュクス……ヴァリアーの中でも特に素性不明の奴だな。幹部でありながら一切の経歴が不明。ただ一つ分かっているのは、ザンザス自ら連れてきたということだけ」
 知らぬうちに忍び寄る死神のような姿は、手にした長槍も相まって一層不吉に見える。目を合わせたら最後、命を奪われそうな錯覚すら覚えた。
 いつもの綱吉であれば怯えて震えていただろう。けれど、この時ばかりは何故だか、目を離せなかった。


20240118

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