沢田家長女 小話1
未来編後のどこか
◇
「……雲雀さんて、好みのタイプとかあるんですか?」
偶然居合わせた綱吉からおもむろにそう問われて、雲雀は目を瞬いた。
「聞いてどうするの」
「えっ……いや、特には……」
返された正論に、気不味そうに頬を掻いた綱吉はもごもごと口を動かす。
名前のどこが好きなのか、遠回しに探りたかったのだ。かと言って直球で「姉のどこに惚れたのか」なんて聞けるわけがない。懐に入れた相手には意外と親切で面倒見が良い雲雀はおそらく答えてくれるだろうが、綱吉が聞きたくなかったのだ。シスコンの自覚はあった。
「まあ、いいけど。……特にないよ。人の美醜はよくわからないからね」
逡巡するまでもなく雲雀は即答した。
本心を言うのなら、当然強いヒトである。強くて、楽しめそうな相手ならなお良い。
だが、そんなことを聞かれているのではないことくらい、雲雀もわかっていた。
けれど、雲雀にとっての基準は強いか弱いかだけである。顔の造形や姿形は名前と同じ、個体を識別するための符号でしかない。雲雀にとって、好きか嫌いかを判断する材料にはなり得ない。
だから、特にないとしか答えようがないのだ。
「ーーああ、でも」
つい、と雲雀が視線を滑らせる。
西日が差し、茜色に染まった校舎は郷愁を誘う。
橙と紫が混ざる空の色は柔らかな蜜色を想起させ、雲雀は唇を薄く吊り上げた。
穏やかな琥珀、鮮烈な黄金、時々によって変わる表情は見ていて飽きない。
満開の花に染まる朝日を束ねた髪。花火を写したような星降る瞳。そして、夜の炎(ドレス)を纏った姿は昏く美しく、悩ましげに眉根を寄せる表情は今も雲雀の目に焼き付いて離れない。
「あれ、一緒にいるの珍しいわね」
「沢田」「姉さん」
重なった声に、少女は思わずといったように笑みをこぼした。
人の美醜には欠片の興味もない。それは真実だ。
けれど雲雀が殊の外気に入っているその色はきっと、口に含んだらさぞかし甘いのだろうとは、思っている。
20231218
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