短編 | ナノ

沢田家長女 54


 ◇

「六道骸。そのレンズであの子はどう見える」
 魔レンズを覗いたまま険しい顔を崩さない骸へ、未来の雲雀が声をかけた。
「間違いなく沢田名前の肉体です。ですが、」
 骸が僅かに言い淀む。隣のフランが珍しいものを見るように見上げてくるのを、骸は手にした三叉槍で視線を遮るように緊張を削ぐ被り物を突き刺した。
「随所に、筋繊維から内臓にいたるまで継ぎ合わせた形跡がある」
 晴れの活性を用いないそれは、細胞が生きていなかったということ。つまり一度は確実に死んでいることを示していた。
「そう」
 雲雀は短く返すと、トンファーを握ったまま少女の前へと進み出る。
 その肉体が本物の沢田名前であるのかどうか。雲雀はただ、それさえ分かればよかった。

 ×××

「姉弟対決と言いたいところだけど、もっと適任者が来たね」
 白蘭が愉快そうに笑う。あくまでも一人のプレイヤーとしてあり続けることを望んだこの白蘭は、少女を蘇生した時に自ら翼を明け渡していた。
「本来、同じ人物が同じ時間上に存在することは出来ない。この世界の雲雀恭弥は、いったいどんな抜け穴を見つけたのかな」
「さぁね」
 過去と未来、二人の雲雀が白蘭と相対する綱吉の前に進み出た。
「ヒバリ……」
「余計な気は回さなくていい。彼女の相手は僕がやる」
「同じく」
「ーー白蘭(マスター)、どうされますか」
 警戒したように彼女が槍を構える。
 白蘭にとって、雲雀恭弥が二人いるという異常事態は完全に予定外だった。
 本来、沢田綱吉は白蘭が自身の力で斃さねばならない相手ではあるが、今のままでは相手にならないことは明白だ。
 しかし、雲雀恭弥が二人いるのであれば、話は変わる。
 白蘭には並行世界で雲雀を破った知識はあるが、天性の戦闘スキルを前にしてはその攻略情報はさほど役には立たない。そして今の#苧魔ナは勝率は低い。そもそも破った世界ですら殆ど引き分けに近いのだ。
 その相手が過去とは言え二人に増えた以上、白蘭が彼女というカードを切る場面は自ずと決まる。
「せっかくのご指名だ、受けるのが礼儀だろう」
「承知しました」
 魔槍と鈍く光るトンファーが、炎を帯びて輝いた。

 

20231128
20240109 修正

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