短編 | ナノ

沢田家長女 51


 ◆

「ヒバリが目を覚ましましたぞ!」
 綱吉が獄寺の案内でボンゴレの地下本部へと着いた時、二人を迎えたのは静かな廊下に響く大きな声だった。おそらくは了平だろう。簡単に想像がついた綱吉は思わず口元を綻ばせる。
「すみません、色々ごたついてまして」
「いや、全然気にしないで! むしろ獄寺くんで良かったというか、」「ヒバリ! まだ検査が残っているぞ! 何処へ行くんだ!」
 綱吉の声をかき消すほどの声量に獄寺の顔が瞬時に引き攣った。
「すみません、十代目……」
「あはは……」
 ところでどちらの雲雀かと獄寺を見上げると、春の草原にも似た柔らかな翡翠と目が合う。獄寺もまた綱吉を見下ろしていた。
「過去のヒバリっスね。未来のあいつは、今はいないんで」
 ……今は?
 獄寺の言葉がやけに引っかかる。聞き返す前に、綱吉の前を黒い影が遮った。
「ああ、君か」
「ヒバリさん!」
 一瞬の期待の後、隠しきれない落胆が滲む声だった。すぐに常の低く平坦でありながら艶やかな声に戻ったが、続く情報の驚きが勝り、浮かんだ疑問はすぐにかき消された。
「山本武と獄寺隼人は奥で治療を受けてるようだったよ」
「えっ、二人も来てるの!?」
「十代目、守護者は全員過去から集められる予定なんです」
 見上げた翡翠が申し訳なさげに伏せられた。
 雲雀は綱吉にそれだけ告げると、肩にかけた学ランを翻して一人ゲートへと向かう。その背に、空気を震わせるような声がかけられた。
「待てヒバリ!」
 雲雀が出てきたドアから現れたのは、綱吉の予想通りやはり了平だった。ただし未来の彼のようで、背も伸びて体つきも随分と逞しくなっている。
「治療が終わっとらんと言ってるだろう! 何処へ行くつもりだ!」
「ヒバリ、止めはしねぇが言わねぇと芝生頭はついてくぞ」
「……外の様子を。危険はないと言っていたのはそこの彼だよ」
 雲雀は白い顔を僅かに歪めると、一つ息を吐いて答えた。その、妙な焦りが滲む様子に綱吉は首を傾げる。
「お前。さては、何か視たな?」
 確信を持って聞いた未来の獄寺へ、雲雀は思わず振り向いていた。
「……ただの夢さ」
「夢?」
「そう。それでも気になるから外を確認したかったんだ」
 雲雀はその身に流れる血の使い途として神秘の一端を学んではいても、探究する者でも、手繰るモノでもない。故に夢、としか言いようがなかった。
 けれど、あれは確かに現実だった。まるで意識の転移か夢渡りに近い明瞭さ。六道骸のように数代前の先祖に夢魔を持つわけでもない雲雀には、外部からの干渉以外にあり得ない現象だ。
 で、あれば。
「沢田がいた。そして、未来の僕もそこに」
 さすが、ヒバリさんですね
 不意に、スピーカーを通したような声が廊下に響いた。
「あぁ……十代目、起動(おき)られたのですね」
 思わずといったように、未来の獄寺はそう呟いた。


20231108

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