短編 | ナノ

沢田家長女 48


 ◇
 
「未来の彼らが戻ってきた!」

 ×××

「ママ! おとーさん!」
「お帰りなさい!」
 入江と並ぶ二人の子供があまりにも見覚えのある容姿をしていたせいで、装置から出てきた彼らは再会を喜ぶ前に一斉にぎょっとした顔を浮かべた。
「ただいま。ママが起きる前に帰ろうか」
 お父さん≠サう呼ばれた男の腕には一人の女性が収まっている。腕の中の彼女が二人のママなのだろうことは明白だった。問題は、その彼女が彼らにとっても見覚えのある人物だったことだ。
「いやヒバリお前はちょっと待……うぉっ!?」
 入れ替わる直前の戦闘の名残りか、顔中切り傷だらけの雲雀が獄寺を睨んだ。睨まれた獄寺は地獄の鬼神もかくやという惨状と、それにいっさい動じない子供を交互に見やる。
 なんだか昔に、似たような光景を見たような気がしてーー
 ……あれは、いつだったか。
 今のように血濡れた男と、誰かがそこにいたような。
 けれど、記憶の片隅にチラつく亜麻色は、直ぐに不機嫌そうな男の低い声にかき消された。
「まだ何か用。十分働いたと思うけど」
「ちげぇ、そうじゃねぇ……!」
「まぁ落ち着けよ獄寺。ほら、ツナだって落ち着いてんだからよ」
「いいんすか十代目!? こいつ何一つ報告してなかったってことっすよ!? つーかヒバリは顔拭け顔! ガキの前だろ!」
 隣の山本が今更では、と首を傾げた。戦闘中に入れ替わった守護者は多く、この場で身綺麗なままでいるものの方が少ないーーと思い、山本は面々を見渡したが、年長組である雲雀と了平の二人が一番ぼろぼろの様相で思わず口を閉ざした。
 苦笑を浮かべ見守っていた綱吉を見遣る。
「いやぁ、薄々気が付いてたって言うか……一応聞きますけど、その子達は?」
 誰がどう見ても名前の子供だと分かる色彩の双子。片割れにいたっては雲雀と瓜二つ、もはや色違いだと綱吉は改めて思った。
「二人とも僕達の子だよ」
 雲雀はそう言うと、腕の中で眠る彼女を見下ろした。その眼差しの柔らかさは血に濡れていても分かったほどだ。
「……彼女が産んでくれた、ね」
 雲雀はうっそりと笑みを浮かべた。
 覚醒に至っていない分、過去の少女ほどの鮮やかさはないが、亜麻色の髪は陽差しを浴びてきらきらと輝いて見える。過去の雲雀ではなく未来(いま)の雲雀が焦がれ続けた、柔らかな色だ。
「やっぱりお前、監禁……」
「え、ヒバリさんと姉さん、そんなことになってたんですか?」
 それにしてはやけに不機嫌だった数年前を綱吉は思い出す。
 あからさまに憮然とした表情は、実に十年振りに見るものだった。
「獄寺隼人、誘拐犯扱いはやめてほしいんだけど」
 その不機嫌さに、つまり断られたのかと綱吉は苦笑を浮かべた。
 つい、と鈍色が綱吉を見遣る。
「もういいかい。僕達は帰るよ」
「ツナおじちゃん、さよなら!」
「お世話になりました!」
「おじっ……!? あぁ、いや、うん。二人とも元気で……あっ、ヒバリさん! たまには顔出してくださいよ!」


20231007

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