短編 | ナノ

沢田家長女 39


 ◆

「食後の運動くらいにはなるだろうけど、君の相手は僕じゃない。……彼女だよ」
 白蘭の後ろで静かに控えていた女がゆったりとした足取りで歩み出る。白いホワイトスペルの装束は、顔を隠すためのフードと黒いペリースがある特別仕様だ。
 壁に背を向けひっそりと佇む姿は記憶に新しい。
「直接遊ぶのもいいけど、こういうのは護衛の仕事だからね」
 ねー、と振り向く白蘭に、女はぴくりとも応じない。裾から伸びる手足は蝋のように白く、まるで死体のようだった。
「ほう……では、手っ取り早く倒してーー」
 言葉は最後まで音にならなかった。
 まさか、と言葉をこぼす。
 女のフードが落ちたその中から、人形めいた造りの白い面(おもて)が露わになった。二つの深淵を覗くような暗い眼孔が骸を見上げている。
 その貌を見た骸は、あまりの衝撃に目を見張った。

 ×××

「ハァ……ハァ……」
 砕かれた三叉槍が地面に落ちる。
 とうに限界を迎えていた肉体は立ち上がることさえ出来なかった。初めから使い捨てる予定で見つけた仮初の器ではあったが、使い勝手は良かっただけに、この場で捨て去ることが残念でならない。
 ……潮時ですかね。
 くつ、と喉の奥で笑った。
 予定とは異なるが、思わぬ収穫を得られた。むしろ新たに得た情報は、本来の目的よりも最優先事項になるかもしれないものだ。
 骸は悠然とした笑みを浮かべ、外へと意識を逃がそうとしてーー
「実体化を解いてトンズラしようとしたって無駄だからね」
 ーー弾かれた衝撃に、目を見開いた。
「言ったでしょ。ここは特殊な結界が張られてるって。思念の類いどころか霊体すらも通さない。死者の魂すら逃げられない電子の檻なんだよ」
 女が指示を仰ぐように白蘭へ振り向く。その身体には傷一つ見当たらない。
「ボンゴレリングを持たない彼には興味ないけと……六道輪廻だっけ、また戻って来れるんでしょ? 来世ってやつ、見てみたいなぁ」
「承知しました」
 機械的な声が木霊する。
 ……彼が、正しかったようだ。
 冷静なまま狂ってしまったように思われた男を思い浮かべ、骸は目を閉じた。


20230930

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