短編 | ナノ

沢田家長女 43


 ◇

「あ……そう言えば、未来のヒバリさんも似たようなこと言って……」
 綱吉の脳裏に、雲雀と修行を始めた時の会話がよぎる。
 この世界は綱吉達の過去と地続きであって続きではない、よく似た異なる世界(パラレルワールド)だと。
「彼、そんなこと言ってたんだ。まぁ、でもそうか……この世界は、彼の前から沢田名前が居なくなった世界だからね」
 入江の言葉に一番反応を示したのは雲雀だった。
「ねぇ。それ、どういうこと」
 眉根を寄せた雲雀が横たわる入江に近付く。見下ろしてくる鈍色の圧に、未来の彼を思い出した入江は少しだけ胃が痛くなった。根本的に苦手なのだ。味方なら頼りになり過ぎる男ではあるが、行動原理が平和主義の入江とは相容れない。
「もしかして、ザンザスの二の舞にならないようにか」
「リボーン、君の言う通りだ。彼女が火種となることを恐れた上層部は、二つの意見に割れた。結果、この世界の彼女は養子に出され、もう沢田ではない。この時代での君は沢田家光のたった一人の子息になっている」
「養子、って。どうしてそこまで……!」
 荒げた声は、メローネ基地で入江に言われた「それだけヤバい状況」という言葉を思い出したことで勢いを無くした。
 養子に出されていたことは綱吉も初耳だ。未来の山本は言っていなかったが、おそらく知らなかったのだろう。
 ……未来のヒバリさんは、これも知ってたのかな。
「でも、過去から来た彼女は僕が聞いている彼女とはだいぶ違うから、もしかしたらーー」

 ×××

「やっぱあいつ、初代雲の守護者と似てるな」
 分かりにくい弟子の優しさに気付いたディーノは、格好をつけることに失敗しボロボロの状態であるにも拘らず笑みを浮かべていた。
 守護者はそれぞれ、初代守護者の在り方に倣った使命がある。歴代全てがそうであった訳ではないが、こと彼らの代においては、初代との類似点が多い。
「それに、沢田名前(ボスの姉)が好きだろ」
 報われない想いを抱いたところまで、何も似なくとも良かっただろうにと、ディーノは涼しげな横顔へと視線を滑らせた。まだあどけなさの残る顔は自信に満ちていて、十年後と比べると表情豊かだ。
 ……いや、ある意味報われはしたのか。
 よく似た子供の存在を思い出したディーノは、何かと曰くの残る関係性を思い、秀麗な顔を曇らせた。

 ×××

「白蘭が私をここまで必死に欲するのは、彼の力がここにきて衰えはじめたからです」
 トゥリニセッテの一角、アルコバレーノの大空を預かるユニには同じくマーレの大空である白蘭の力の盛衰をよく感じられた。
 そして、ボンゴレの大空である綱吉の力の強さも。
 全ての世界で白蘭はトゥリニセッテを揃えたけれど、その難易度は繰り返す毎に跳ね上がっている。
「だから一刻も早く、トゥリニセッテの真の力を引き出し自分のものにしたい。我々がそうであるように、彼に残された試行回数もまた、もうこの一度だけですから」
 白蘭は力を使い過ぎたのだ。数多のパラレルワールドを覗くという、魔法に等しい力は人の身にはあまりにも過ぎたものだった。自滅を感じた魂がその能力へリミッターをかけていることを、ユニは明確に感じている。
「ですが、私を手に入れたところで、そもそもが無理な話なのですけどね」
「え……?」
「トゥリニセッテが揃ったところで、本体へ接続するための装置(スイッチ)がありません。それを白蘭は知らない。全て己の手元に集めたが故に、顕れなかったのです」
「スイッチ……?」
「はい。今はとても強固な力で守られているので、ソレが自ら望まぬ限り、白蘭が手にすることは叶いません」
 ユニはそう言うと、酷く安心したような笑みを浮かべた。


20231002

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