短編 | ナノ

沢田家長女 42


 ◇

「そういうわけで名前、お前も修行は一旦休憩だ」
 開けない匣を手に、名前は途方に暮れたように金髪の男を見上げた。

 ×××

 京子達がボイコットを続ける中、綱吉と名前は真夜中の食堂にいた。そわそわと落ち着きなく食べ散らかしたゴミをまとめる綱吉は、胸につっかえたまま飲み下せないものがあるような顔をしている。
「京子ちゃんとハルちゃん、心配してたわよ」
「……わかってる」
 普段、雲雀の財団で寝泊まりをしている名前は共同生活をしているわけではないが、食事の用意や家事の手伝いに行ったり、子供の相手をしてもらったりなどで交流はあるのだ。
「姉さんはさ、怒ってないの?」
 ゴミ出しの用意を終わらせると、綱吉はそうぽつりとこぼした。含まれた意図が掴めずに名前が首を傾げる。
「何にかしら」
「未来のヒバリさん。子供達のこと、結局最後まで言わなかったんでしょ」
 綱吉の目にふつと、義憤が浮かぶ。今までは二人の問題だから首を突っ込むなとリボーンやビアンキからは釘を刺されていたが、未来の雲雀が説明の放棄をしたせいで過去の雲雀から問い詰められていた姿、リボーン曰く修羅場は記憶に新しい。
 自分のことで精一杯でも、綱吉はよく周囲を見ている。だからこそ、今のように話してほしいと言う京子達と巻き込みたくない自分達との間で板挟みになっているのだろうと、名前は思った。
「そうね、怒ってないと言えば嘘になるかしら」
 我が子であって我が子でない。
 修行に励む間の世話は、雲雀はあらかじめ草壁と、ボンゴレ側には教育係としての実績もあるフゥ太に依頼していたようだった。過去の名前と雲雀が修行に集中できるように。
「それに、こればかりは私が解決する問題じゃないから」
「どういうこと?」
「子供を産んだこの未来の私は、今を生きる私じゃないってこと」
 三年後に名前が雲雀との間に子供を望むかどうかは、その時にならないとわからない。望んだ未来も、望まなかった未来も同時に存在している。未来の雲雀は彼女の選択を狭めないよう、敢えて何も言わなかったのだ。
 未来の彼らが選んだものを、今の彼らも選ぶとは限らない。
 最初から全てを明かし誠実であろうとした男の、過去の少女を思いやる気持ちだけは、名前ははっきりと感じていた。
 それだけは、過去の雲雀と変わらないと思ったから。
「だから私は、沢田名前(わたし)の選択を尊重してくれた雲雀君を信じてるの」
 ……信じる、か。
 綱吉は白百合のような微笑みを浮かべた名前の言葉を、口の中で転がした。


20231001

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