沢田家長女 40
◇
「……お姉ちゃんのこと、何があっても信じられる?」
「当たり前だ。姉さんが何であれ、大事な家族であることに変わりはない」
澄んだ琥珀が燃えるように輝く。可愛い大好きな弟に真っ直ぐ伝えられた名前は嬉しそうに笑うと、背後から綱吉の手に重ねるように両手を広げた。
「姉さん?」
「つっくんの炎に私のを重ねるの。大丈夫、きっと上手くいく」
「ぁ……」
大空の炎の特性は調和である。その性質を表すかのように、二色の大空の炎は混じり合いながら出力を上げていく。
……これが、姉さんの死ぬ気状態の感覚なのか。
交わる炎により生まれた共鳴(リンク)により、名前の感覚が綱吉にも伝わっていた。
触媒を必要としない、炎に完全対応した超越者の感覚。まるで、身体そのものが炎へと変わったかのようだった。心(ウチ)も身体(ソト)も炎で満たされる。噴射した炎の先まで、拡張した手の一部分となったかのようだった。
……これなら、いける。
絶対的な確信を綱吉は抱いた。
想定している最大出力を大幅に超えていく炎に、計測していたスパナが危険だと叫んだ。このままでは彼らの身が持たない。
それを見ていた幻騎士は、突如錯乱したように叫んだ。
「させるかァ!」
……あの目だ。
悪魔に陶酔してしまった己を責めるでもなく、そうなることを識っていたかのような覚悟と苦悩を宿したあの目。
今も幻騎士の脳に焼き付いて離れない、澄んだ光を湛えた瞳。
それがボンゴレの小童風情と重なることが、重ねて見てしまったことが信じられなかった。
何よりその後ろから幻騎士をひたと見据える、黄金に輝く悪魔と似た冷えた眼差しが。
「……ハ、ハハ……!」
幻騎士の口から乾いた笑いがこぼれた。
……殺したかった。自分もその手にかけてみたかった。
剥き出しにされた浅ましい欲望に、僅かに残された騎士としての誇りが頬を伝った。
指輪の呪いにより増幅された欲望と、それに由来する後悔と興奮が入り混じり、幻騎士の理性を削ぎ落としていく。
強大な力を得る代わりに、魔力に当てられ膨らんだ小我が大我を飲み込む擬似的な反転状態に陥っていた。
地獄の名を冠するその指輪の魔力は、人には余りにも毒性が強すぎたのだ。
「死ねェ!!!」
「……かわいそうな人ね」
綱吉に寄り添う名前は憐れむように幻騎士を見下ろすと小さく口を動かした。
幻騎士の視界で、黄金が輝く。
「ーー動かないで」
「っ!?」
それは、人を堕落させる甘やかな声だった。
それは、人を救済する清廉な響きだった。
まるですぐ耳元で囁かれたような錯覚さえするその声に、幻騎士は思わず硬直したように動きを止めていた。
一瞬生じた隙に、幻騎士の頭上から星が燃えるような光が炸裂する。
ーーX BURNER超爆発(ダブルデトネーション)
「おのれ、おのれおのれおのれェッ……!!!」
「その鎧、頑丈だけどゴミは入りやすいみたいね」
片耳から小さな黒い旧式のワイヤレスイヤホンを外した名前が酷薄な笑みを浮かべた。
20231001
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