短編 | ナノ

沢田家長女 27


 ◇

「え、雲雀君と場所取りで戦ったの?」
「最後はシャマルが桜クラ病にして膝を突かせたんだ。ツナ達が勝った訳じゃねぇ」
「う゛っ……そもそもリボーンが言い出したんだろ。それよりヒバリさんかかったまま帰っちゃったけど、大丈夫かなぁ」
「……つっくん、私ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、お姉様でしたらオレが護衛をーー」
「平気!」
 あっという間に駆け出した名前に、ビアンキは「愛ね」と呟いた。

 ×××

「雲雀君、待って!」
「沢田……?」
 桜に囲まれてふわふわと浮ついた脳がついに幻想まで見せたのかと、雲雀は駆け寄る亜麻色に手を伸ばした。
 触れた頬から伝わる乱れた呼吸は肉感を伴い、風に舞う亜麻色が手の甲を掠める感覚がくすぐったかった。
「保険医に桜クラ病にされたって……それで追いかけたの。雲雀君、今私のことちゃんと見えてる?」
 ……ああ、なんだ。そういうことか。
「君も一緒だったのか」
 強いのか弱いのか、いつまで経ってもよくわからない沢田の弟が「みんなで花見をするから」と言っていたのを思い出した。そこには当然、家族である彼女も含まれて然るべきだ。
 ふつ、と落胆が湧き上がる。
 弟の世界が広がることを喜んでいた彼女の世界もまた、同じように拓かれているのだ。そのことに気がついていないのは彼女だけ。
「ビアンキとお弁当の用意してたのよ。弟が場所取りで、人数も増えて……ごめんなさい、雲雀君の邪魔して。それに変な病気まで」
「構わないよ」
「代わりにはならないけど、桜並木出るまで送るわ」
「いらない。僕は一人で立てーーっ」「雲雀君!」
 視界が眩みたたらを踏んだ雲雀に、名前は思わず支えるように手を出した。
「来るな!」
 雲雀はその手を拒むように、止まらない眩暈に揺れる世界の中振り払おうとするが、力が入らない。挙げ句、雲雀より圧倒的に非力な名前にまで受け止められる始末だった。
「雲雀君、私は確かにあなたより遥かに弱いし、頼りないかもしれないけどね。私だって同じ委員長なのよ」
 言い聞かせるような穏やかな声は昂った雲雀の精神をゆっくりと安定させていく。その様子を見ながら、歯を食いしばりながらも立ち続ける雲雀の背に名前の手が回された。押せば倒れそうな華奢な身体でも、もたれかかれば幾分かマシだった。息を吸い込めば、風に揺れる亜麻色の髪から微かに汗の匂いと甘い香りが混じり合ったものが雲雀の鼻を掠める。
「それにね、並中の風紀と保健、他所からなんて呼ばれてるか知ってる?」
 下から見上げる甘やかな目が意思を持って挑戦的に輝くのを、雲雀は確かに見た。薄い桜色の木漏れ日で蜜色はにわかに黄金へと染め上がる。
 その鮮やかさに、雲雀は手を取られたことへの反応が遅れたほどに目を奪われた。
「何、急に……」
「並中の双璧だって。ふふ、おかしいわよね。私喧嘩なんてできないし、したこともないのに」
 きっと雲雀に言い返す姿を見られるうちに、そう言われるようになったのだろう。雲雀が言うところの群れなかった名前は、彼の攻撃対象になったこともなかった。そこだけを切り取り生まれた勝手なイメージだ。
「だからじゃないけど、片割れが困ってるんだもの。放っておけないわ」
 視界が黄金に染まる。波打つハニーブロンドは風を孕み舞うと柔らかな陽光のように揺らめき、雲雀の視界を桜から覆い隠す。
「今は、私だけを見てて」


20230914

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