短編 | ナノ

沢田家長女 23


 ボンゴレ日本支部 キッチンにて AM1:00
 ◇

「姉さん……」
「言わないで、つっくん」
「あの子達、誰の子なのー!?」
「そんなの私が知りたいわよー!!」
 ボンゴレ日本支部も風紀財団本部も寝静まった真夜中。突如始まった沢田家緊急家族会議、議題は謎の子供二人。司会進行は不在である。
 その子供達はランボ達のところへお泊まり。雲雀も何やら所用で不在ときた。
 今しかない完璧なタイミング。空気の読み方と場所の選択は姉弟間でのみ通ずる無言の意思疎通によるものだ。
 誰も見ていないというのに、水を飲みに来た体を装い着席した途端、お互い今まで言えずにいたことを捲し立てるように、けれど小さな声で叫び始めた。
「姉さん何か聞いてないの!?」
「聞ける訳ないでしょう!」
 常に纏うお淑やかさをかなぐり捨てた名前が吠える。
 未来の雲雀からは殆ど初対面のうちに未来の名前と過去の名前は違うと言われている。その上、名前同様に初対面のようなぎこちなさが時折垣間見える父子関係。
「ていうか、どう見ても姉さんとヒバリさんの子供じゃん! 未来の姉さんのこと知らないって言ってたのにあの人子供まで作ってたのどういうことだよ!?」
 双子の子供の手を引く名前を見た瞬間、綱吉は草壁の言う込み入った事情とやらを理解した。確かに込み入っている。表の事情と裏の事情が複雑に。
「あー知らない知らない知らない知らない」
 ここにいない雲雀へと叫ぶ綱吉に、現実を否定するように名前は頭を抱えた。
 未来で起こる悲劇やそれを防ぐ為の計画についてであれば、綱吉にはまだ言えないことすら雲雀は包み隠さずに教えてくれた。力の使い方も、効果的な方法も、雲雀が持つ技術全てを授けるように。
 けれどプライベートなことになると、つい二の足を踏んでしまう。
 雲雀と子供達と共にいる時は気にならないのだ。雲雀との修行の時も。そもそも雑念に振り回されている余地が無いこともあるが。
 でも、そこから一歩でも離れると、駄目だった。
 いくらママ≠ニ呼ばれ親愛を向けられても、母性が急に刺激されても、名前は彼らが未来の自分の子供であると確証が持てなかった。
 この雲雀は名前が関係を壊したくないと願った、あの雲雀ではないのだとその度に思い知らされ、途端に薄氷の上に立っているかのような不安に囚われる。
「別居?離婚?事実婚?認知されなかったとか、私が迫った挙句逃げたとか、色々考えてたら吐きそうになってきた……」
 一通り叫んで落ち着いたのだろう。青ざめたまま机に突っ伏した名前に、綱吉は水を注いだグラスを渡した。受け取った透明のグラスに付着した気泡がぷくぷくと浮かんでは消える様を眺めながら、名前は小さく、けれど重たい息を吐く。
「ヒバリさんは認知すると思うよ」
「そうね。優しいもの、どうであれ責任取りそうよね」
 皮肉混じりの言葉に綱吉は微苦笑した。過去の雲雀が時折見せる、名前を見る目を知らないからそんな呑気なことを言えるのだろう。
 どろりと溶けた、仄暗い目。抜き身の刀のような張り詰めた空気と涼やかな目元からは想像もつかない、執着心と独占欲を煮詰めた昏い眼差し。
 未来の二人に何があったか、過去から来た綱吉には想像もできないことだが、それでも綱吉が知る二人はそう簡単に別離を選ぶようには思えなかった。きっと何が事情があるはずだと。
「そもそも、私が産んだって決まってないのよ」
 涙の滲む声で名前がまた塞ぎ込んでいくのを、綱吉は冷静に切り返す。
「どう見ても姉さんの子だよ」
 綱吉から見ても琥珀色の目をした夜宵はどう見ても名前に似ていたし、雪弥は雲雀の色違いにすら思えた。
 綱吉が聞いた時に答えた雲雀の知らないという言葉が嘘だとすれば、辻褄は合うのだ。絶縁状態となった七年前、高校卒業頃というタイミングからの行方不明に、雲雀が立ち上げた地下財団。計算だけは合う。
「姉さん、寝るなら戻らないと」
 組んだ腕に顔を乗せた名前の目線に合わせるように、綱吉は同じように突っ伏して名前の顔を覗き込んだ。
 潤んだ蜜色がうとうとと瞬きを繰り返す。
「雲雀、くん……」
 ……会いたいなぁ。
 声にならない言葉は正面で見ていた綱吉だけが聞いていた。
 それがもう答えであることは、綱吉は口には出さなかった。



20230903

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