短編 | ナノ

沢田家長女 17


 ◇

 修行が始まってからきっかり十日後。負傷した獄寺と山本も合流したその日に、雲雀は宣言通り綱吉の前に現れた。個別強化プログラムが始まるのだ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
 これから始めるという段階で手袋をはめた綱吉は、我慢できなかったように雲雀の元へ走り寄る。
「なに」
「ヒバリさんも、この時代の姉さんのことは知らないんですか?」
「知らないな」
 切って捨てるような断言だった。
「でも、過去から来た姉さんを保護したのは雲雀さんだって……」
「この時代の沢田名前は一般人だ。非戦闘員(ファミリー)ですらない、戦う術を持たない……炎の存在も知らない、普通の子だよ」
「え……?」
「だから、僕はあの子が秘めていた力を知らない」
 そんなはずなかった。何かがおかしいと綱吉は眉根を寄せる。横で聞いていたリボーンも首を傾げた。
 綱吉達の知る名前は、リング争奪戦の最後の戦いで炎を灯している。それは綱吉のものとも、ザンザスのものとも違う、闇よりも黒い炎であったが。
 それはリボーンも目にしていることだ。何よりその炎で燃え盛る校舎から助け出したのは、雲雀本人である。
 そのことを雲雀が知らないはずはないというのに。
「ヒバリさん何言って、」
「この未来は、君たちが来た過去からの続きではないということさ」
 そう言うことかと呟いたリボーンの声が、やけに響いて聞こえた。
「聞きたいことはそれだけかい。早く始めよう、時間が惜しい」

 ×××

「ーーそう。過去のあの子は、愛に生きれるのね」
 倒れた獄寺を抱えたビアンキは、扉を背にしてそう呟いた。


20230820

- 35 -


[*前] | [次#]
ページ:



[戻る]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -