短編 | ナノ

沢田家長女 15


 ◇

 ミルフィオーレファミリーのブラックスペルとの交戦後、負傷した獄寺達と共に基地へと戻った綱吉がリボーンと話していると、部屋の自動ドアが開かれた。
「話、いいかな」
「ヒバリさん!」
「会いたかったぞヒバリ」
「僕もだ」
 雲雀は何かを懐かしむように一度目を閉じると、そう声を落とした。その仕草一つにも匂い立つような艶やかさがあり、綱吉が知らない彼らの時間を感じさせる。
 話だけど、と切り出した雲雀に自然と綱吉の背筋も伸びた。
「君には短期間で強くなってもらう。時間もないから十日で仕上げをするよ」
「えっ!?」
 綱吉の口から喉がひっくり返ったような声が出た。
「できないの?」
 雲雀の目に剣呑な光が宿る。さもなくば死ねとでも言いたげに凄みを帯びた表情は、リボーンの言葉でふ、と和らいだ。
「できるに決まってるだろ。オレの生徒だゾ」
「赤ん坊ならそう言うと思ったよ」
「それで、お前が修行を見てくれるのか?」
「仕上げまでは適任者に任せるよ。僕は別の仕事があるからね」
 うっそりと微笑んだ雲雀に、綱吉は恐怖で血の気が引いた。不良百人と戦う前も、似たような笑みを浮かべていたのを覚えている。
「あの、お話中すみません」綱吉が名前について尋ねようとした時、ジャンニーニが治療室に顔を覗かせた。
「情報収集に当たっていたビアンキさん達が戻られまし」「あぁ! 愛しい人!」
 ジャンニーニの言葉が終わらぬうちに、嵐のような勢いでビアンキが飛び込んできた。綱吉はまだビアンキの属性は知らないが、きっと嵐属性なのだろうとぼんやり思った。
 直後、タイミング悪く意識が戻った獄寺が絶叫しベッドから転げ落ちる。次いで入室した、綱吉の知らない青年が「変わらないなぁ」と小さく笑いながら綱吉を呼んだ。
 薄い色彩と丸い頭。「フゥ太?」面影が重なった名前を口に出すと、青年は花が綻ぶように破顔した。
「ツナ兄、会いたかったよ」
 途端に人数の増えた治療室で、肌に冷気が掠めるような悪寒が走る。
 綱吉がぎこちなく振り返ると、白皙の美貌が鬼よりも恐ろしく綱吉を見下ろしている。
「これ以上群れるなら咬み殺すよ」
 情けない声で叫ぶ綱吉をトンファーで締め上げた雲雀は足早に治療室から去った。入れ違いに現れた草壁と目が合うと、綱吉は新しく出来た青あざで顔を飾ったまま癖のように会釈をしていた。
「雲雀に代わり、私から説明します」
 +++
「それから行方不明になっていた沢田名前についてですが……」
「見つかったのか?」
「はい。過去の彼女と入れ替わったところを雲雀が保護しました」
 草壁の報告に綱吉はようやく胸を撫で下ろした。雲雀が見つけたのなら大丈夫だとほっと息を吐く。
 ただそれは、綱吉が気掛かりだった絶縁状態について聞けないということでもあったけれど。
「あいつそんな大事な事を言わないで帰りやがったのか!?」
 驚く獄寺に、綱吉も心の中で同調した。けれど、一言も言わなかったのは絶縁状態の姉弟関係を気遣ったのだろうかと思案する。
 元々、女子供には、あのランボにさえ優しさを見せることもあったのだ。そして傍若無人であるが、存外人をよく見ていることを知っている。ただし、見てはいるが、関係ないと全てを蹂躙するのが綱吉の知る雲雀である。
「ただ、少し込み入った事情があり……彼女については当分の間は風紀財団預かりとさせていただきます」
「えっ」
「見つかったのなら会えるのよね?」
「そちらも暫くは制限させてください。ただ、怪我などはされていませんので、そこはご安心を」
「もしかして、未来のオレと姉さんが絶縁状態っていうのに関係が……?」
 恐る恐る尋ねる綱吉に、草壁は安心させるように口角を緩め首を振った。
「お二人は仲違いした訳ではありません。むしろマフィアの後継者同士には珍しいほど仲の良い姉弟でした。ここから先は直接雲雀に聞いてください。しばらくはこちらに滞在するつもりですので」


20230813

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