短編 | ナノ

沢田家長女 case.ボンゴレの血統00


case.ボンゴレの血統

「ーー昼と夜の境。生と死の間(あわい)。黄昏の世界。私を焦がす、神の愛」

 古代ギリシャと同時代にあった、とある地方の土着信仰で用いられていた神器が発掘されオークションにかけられることとなった。
 習合され、忘却され、とうに滅びた神話ではあるが、禅譲名前に顕れた黒い炎の手がかりになるかもしれないと、そのお披露目にエルメロイ二世も参加することになった。
 護衛として当事者でもある名前を連れて行ったエルメロイ二世だが、そこで思いもよらぬ抗争に巻き込まれる。
 ブラッド・オブ・ボンゴレ。魔術組織とマフィア。
 魔術と炎と思惑が入り乱れる中、置き去りにした思い出がほころび始める。


 ◇

 吹き抜けの天井は高く、その中心に降臨するように吊るされたべネチアンガラスのシャンデリアが輝きを放つ。
 その下ではワインを片手に談笑する者、飾られた彫刻や美術品を鑑賞する者とめいめいに過ごしている。
 ライネスが見るに、およそ八割方は一般人。ただしイタリアンマフィア含む。時計塔で見た顔は一割に満たないが、残りはどうせ地元の魔術師であろう。
 現代ではマフィアが魔術師のスポンサーになることはさほど珍しくはない。稀に手がつけられないほどに巨大化する例もあるが、仲違いして終わるのが殆どだ。
 このオークションも、主導権を握る多くは魔術師である。その他大勢はあくまでも金を払うスポンサーに過ぎない。
 楽団が奏でるゆったりとしたクラシックに耳を傾けながら、磨き上げられた大理石の床を移動していると、ふいにエルメロイ二世が振り返った。
「念の為聞くが、礼装は」
 堂々とした立ち姿ではあるが、その膝は小刻みに震えていた。
「我が兄ながら繊細が過ぎるな」
 自分に向けられている訳でもないというのに。そう溢したライネスに「仕方ないだろう」とか細い声が返される。名前の横に立つグレイも同意するように小さく顎を引いた。
「つけてます、先生(ロード)」
 思い詰めたように絞り出された声は、目線は真っ直ぐ前を向いていても意識はどこかそぞろである。ホールに入場した直後からずっと、退屈そうに壁にもたれかかった青年にじっと見られているのだ。
 男はライネスの目から見ても中々の美丈夫である。
 けれど、その伶俐な美貌とは裏腹に燃えるような視線の強さに、冷や汗は止まらない。態々見返さなくともわかる、隠匿を是とする魔術師とは異なる、夜に生きる者の鋭い眼差し。
 見ていると思わせないようにごく自然に、けれど確実に名前の動きを追っていた。
「すみません」
 囁くように答えた名前の耳元で金の耳飾りが揺れる。
 古代文字が刻まれた視線避けの耳飾りで、装着すると一般人からは意識されにくくなる。とある礼装のレプリカでランクも高くないため並の魔術師ならば見抜ける程度だが、ここがイタリアである以上彼女には必要な礼装である。
 遠目でもわかる美丈夫に色めき立つ女性グループは両手で数えても足りなかった。
 それでも鮮やかな花達が視線で秋波を送るに止まっているのは、その男が圧倒的に人を寄せ付けないオーラを纏っているからだ。
 数多の視線が向いていることは気付いているだろうに、それでもじっと名前だけを見つめている。
 まるでーー誰かであることを、確信したように。
 まるでーー逃した獲物を再び見つけたように。
「見覚えは?」今度はライネスが振り向いた。
「……あります」
 至極言いにくそうに名前が言う。顔を忘れて断定できないと言うより、そうであることを認めたくないというような声音だった。
「さては昔の男かな」
 視線避けの耳飾りの欠点は、強く認識している人には効果が薄いことである。耳飾りの前の持ち主であるライネスが、一番よく知っていた。
「っ、」
 揶揄うようなライネスの声に、沈黙の中に一瞬の動揺が混ざる。
「は?」「え」
 思わず振り向いたエルメロイ二世とグレイの顔は後にライネスから当分の間揶揄われることになるが、それよりもライネスは彼女の反応に面白そうに口の端を上げた。
「ほう?」
 だから男からエルメロイへの視線が鋭かったのかと合点がいく。ありきたりではあるが、ロマンスとしては王道である。これはなんとも、愉快で倒錯的な予感がした。
「当ててしまったかな」
「いいえ……外れよ、レディ。そういう仲ではなかったの、本当に」
 普段、ライネスが困らせても困った顔など見せたことがない彼女にしては珍しい、心底困り果てたような声だった。
 まるで、掛け違えたシャツのボタンを見られたような、忘れ物を指摘されたような。




material
禅譲名前
 ノーマル√ifの姿。
 リング戦では人質として強制召集。ただ、その後ボンゴレ的な諸事情で沢田家光の子供は息子一人ということになり、母親の実家に養子入り&中三の秋という半端な時期に転校することに。
 ところが、転校後に神性とボンゴレの血統が覚醒。三年間身を苛む炎に耐え続けたが、修学旅行中についに崩壊。偶然出張中のエルメロイU世により救われ、卒業と同時に渡英。現代ではあり得ない神性の発現に保護目的で君主(ロード)内弟子に収まった。
 魔術回路はあるが、魔術師としては未熟なもの。とは言え、衰退した魔導に連なる家系の出としては破格。
 しかし、エルメロイU世の見立てでは三重属性に見えるだけで、それとは異なる属性ではないかとのこと。

属性:火、空、風
起源:狭間
魔術回路 質EX(測定不可)/量D
魔力量 1000
 自身の認識的にはあくまでも魔術使い。
 通常、詠唱は魔術の効果を高めるためのもの。けれど彼女の詠唱は、自滅しかねないほどに強大な力をその身体に耐えられるまでに落とし込むための詠唱である。
 神性に染まれば染まるほど、その肉体は人から遠ざかる。



20230529

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