短編 | ナノ

月の大公 00




 そこは、宙いっぱいに広がる暗い孤独と無彩色の砂漠だけだった。何もかもがない寥寥たる景色は、僅かに故郷を思い起こさせる。
 城も、
 水も、
 花も、
 白い輝きも、
 太陽の暖かさも、
 何もかもがなく、ただ暗闇の中、白い砂漠が広がっている。暗黒に包まれ死の星となった故郷と比べれば美しさすら感じる空虚なそこが、クリスタルトーキョーの防衛システムに弾かれたサフィールが飛ばされた場所だった。座標からすると、クイーン最強の護りの一つ、月の大公が根城にしている月の裏側だ。栄華を誇る光り輝くクリスタルトーキョーの影の部分にして敵対者の墓場。
「ようこそ、ミレニアム要塞へ」
 誰もいなかったはずの背後から聞こえた声に慌てて振り向いたサフィールの目に、故郷と同じく色彩の無い世界でただ一つだけ輝く黄金が射す。
 青褪めた美しい貌に浮かぶそれを見て、なるほど、確かに月の大公、月の亡霊だとサフィールは納得した。
 月の威光を示す瞳は、ただ見ているだけで内側を暴かれるような不快感と恐怖を与える。そう感じたこと自体に腹立たしく思いながら、サフィールは目の前の戦士を睨め付けた。
 サフィールにとって、目の前の孤独な戦士は美しかった地球を支配する月の住人という以上に、兄を狂わせた女と同じ血が流れているというだけで唾棄すべき存在だった。それでもその戦士から目が離せなかった。
 砂漠にも似た色という色を奪われたような白い軍服。邪黒水晶よりも深い夜を溶かした黒髪。そして何よりもーー
「歓迎しましょう。いずれ、この地に広がる砂粒の一粒になるのだから」
 サフィールを射抜く月光を宿す瞳が、光の届かないこの暗い月の裏側で、ただ一つ炯々と輝いていた。


20230130

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