短編 | ナノ

沢田家長女 05


・モスカの中身が沢田姉だったら。微fate(go)風味
沢田姉をキャラとして知ってる転生主(マフィア出身風紀委員)による負のピタゴラスイッチ。



もしかしたらあり得たかもしれない未来 BAD編


 九代目を助ければそれでいいと思っていた。ツナとその守護者の委員長と浅くはない関係を結んでいた私は、思惑通り次期ボンゴレの幹部補佐として内々に枠を与えられた。リング戦にも『招待』され、何も知らされないままの彼女の炎は封印されたまま。
 これは本来のシナリオではない。未来編へと繋がるための土台だ。未来編で並行世界の彼らが飛ばされる十年後。滅ぼされる一歩手前の未来へとこの世界は向かっていく。それこそが、彼と彼女が公では結ばれないルートだからだ。この未来じゃないと、私が彼と結ばれない。
 だからこれでいいと、本気で思っていた。
 目の前でモスカの外装が剥がれていく。
 おかしいと、頭の中で警鐘が鳴っている。電力源である生命体がない以上、駆動時間は僅か五分までに縮まっている。それなのにモスカは縦横無尽に動き、委員長と互角以上に戦って見せた。
 まるで、誰かが中にいるかのように。
 九代目は確かに私がお救いした。ザンザスの企みも、クーデターも、全て私と一族が阻止した。
 中のモノが徐々に見えてきたことで、みんなの、特に最前で戦っていた委員長の顔色が変わっていく。
 ……ああ、いやだ。見ないで。
 誰かが犠牲になっていると理解した頭とは裏腹に、真っ先に浮かんだのは見ないでという欲だった。
 モスカの動力源は死ぬ気の炎だ。現時点で灯せる人は、ここにいない九代目か?ーーそれはない。だってあの方は後方で健在だ。
 では、それともバジルか?ーーそれもない。今隣にいるというのに、幻覚のはずもない。
 では、誰が?
 脳裏によぎったそれを考えないように、次々に候補を上げては消していく。
 だって今の彼女は灯せない。九代目が封印した彼女の炎は、リング戦での死の恐怖が引き金となって溢れたものだから。リング戦に出なかった世界の彼女は、それきり物語上での存在感を失うのだ。ただ主人公の姉というだけの背景に変わる。そうすれば、次に現れるのは十年後。本来の道筋である、「リング戦に出た彼女」と入れ替わるためだけに並盛へと戻ってくるのだ。幼い子供を二人抱えて。
「そんな……」
 誰かが呆然と声を漏らした。
 壊れたモスカが崩れ、内部が晒される。支えを失ったことで重力に従い落ちてきた白い足が地面に触れた。素っ気のない検査着は爆風にはためき、血の気を失った少女の白い足を晒している。
 火花と爆発、土煙の奥に見えるのは、見覚えのある容貌の少女だった。
「名前、」
 反射的に駆け出そうとした門外顧問の足が、縫い付けられたように止まった。蜂蜜色の髪から覗く瞳は暗く、この世の絶望と憎悪を煮詰めたように濁っている。
「姉、さん…?」
 ツナが呆然と呟く。嫌な予感が当たってしまった。委員長と結ばれる未来が約束された、強くて綺麗な彼女。羨ましくて恨めしくて、ならばせめて未来で関わって欲しくなくて、正規の物語から道を外してでも遠ざけようとしていた筈の彼女が。
「ザンザス! なんてことを……娘に、一般人に手を出したのか!」
 最悪の形で、リング戦参戦という本来のルートに戻ってきてしまっていた。
「チェルベッロ、同盟ファミリーとしてキャバッローネはこの件について抗議する。即刻リング戦を中止しろ」
「……ザンザス氏、説明を願えますか」
 門外顧問とディーノさんが抗議をするが、残ったヴァリアーはじっと指示を待つかのようにザンザスと彼女を見ている。まだ一般人の彼女が最悪の形で利用されたことは想定外だったのか、チェルベッロも僅かに動揺が見られた。リボーンはどこかに連絡をしながら、今にも駆け出しそうなツナ達を引き止めている。
 思わずザンザスを見ると、口元は歪んでいるものの、奇妙なほど凪いだ瞳で彼女を見下ろしていた。
「真昼の空は反転し、大空は夜へと落とされた」
 小さな呟きだったが、妙にこの場に響いた。
 辛うじて配線が繋がり胴体部から垂れ下がっていたモスカの頭部が落ちる。どういうことかと聞く私達を、ゆっくりと顔を上げた彼女が見た。瞬間、ぞわ、と悪寒が走る。モスカの頭がまだ存在しない筈の炎に包まれ、彼女も巻き込んで燃え上がった。
 恐怖に震える。歯の根が合わない。
 こんな展開、私は、知らない。
「これは全て、テメェらの蒔いた種だ。……さぁカス共! 祝え! そして嘆け! 既に扉は開かれた! 七つの空を三度超え、夜の帳は降ろされる!」
 ザンザスの狂ったような笑い声が響く。
 それは、血を吐きながら叫ぶような祝詞にも聞こえた。
 竜巻のような突風が吹き、燃え上がる黒い炎の勢いが収まる。
 そうして、再び姿を現した彼女の姿は今までの彼女から一変していた。
 灰色の検査着から銀の装飾とスリットが入った黒いドレスへ。額には黒く染まったブラッドオブボンゴレが揺らめき、手足にも同じ色の炎を纏っている。
 きっと夜を具現化したら、こんな姿をしているのだろう。星の散る瞳は濃い琥珀から燃える星の色へ。昏い影が落ちる美しい顔から一切の感情を削いだように表情が抜け落ちると、普段の柔和な表情からは想像できないほどに凄みが増した。
「封印は暴かれ、ここに契約は結ばれた。裏切りと憎悪こそ私に定められた結末。我らが生まれし因子。この身に纏う炎は私を苛む寵愛の証。……喜びなさい。貴方がたの働きにより、夜の獣はここに顕現しました」
 彼女の頭上に重なり輝く三つの輪が現れた。それぞれに大小様々な棘が生えたそれは、トゥリニセッテを連想させる、光の冠。
「あぁ……」
 膝から崩れるようにして地面に手を突いた。覆しようのない失敗に、視界が滲む。
 封印の解呪方法でもある覚醒条件は命の危機と恐怖。本来の<潟塔O戦では毒を注入された彼女の封印が解け、結果暴走する。それを止めるために委員長が助けに入るという流れだった。夜を覆い隠すのは、雲だから。
 主人公である綱吉の覚醒が黒曜編だとすれば、準主人公でありヒロインである沢田名前の覚醒はリング編だったのだ。
 けれどどれだけ物語が進んでも、彼女は全力を出すことはできなかった。
「これより独立暗殺部隊ヴァリアーは規定により、ヴァリアーボスをザンザスから沢田名前へ変更。現九代目を不信任とし、ザンザスを正当なる後継者、真なる十代目、ネオ・ボンゴレとして、現行ボンゴレへの革命を開始する。これは、ヴァリアー隊員の総意でもある」
 いつもの怒鳴り声を潜めたスクアーロがそう宣言した直後、王の号令を思わせる動作で掲げた手から炎が立ち昇る。ザンザスの憤怒の炎より高密度の、光すら捻じ曲げる黒い極光。それこそが九代目により封印されていた嘆きの炎。初代の姉が飲み込まれた、十年後に出てくる筈のその究極体、神の寵愛たる原初の夜炎。
 途端、聞き慣れた甲高い音が無数に響く。けれど土煙が舞うより早く、ヴァリアーの幹部達は黒い炎に包まれ姿を消した。

 その後、ザンザスとヴァリアーを粛清する為に駆けつけた先代ヴァリアーボスのテュール率いる精鋭部隊と九代目により、沢田名前の暗殺命令がヴァリアーに下されていたことを知った。

 これは十年早いボンゴレ狩りが始まる、数日前のことだ。



**
この後ボンゴレ狩りしながらトゥリニセッテを攻略、二人で世界を滅ぼす滅亡ルート。千夜は人の枠から外れ人類悪に。ザンザスは九代目を殺した後は行方不明に。

ルート分岐については00の最後参照。


千夜
風紀委員主が前もって9代目救う→次代のファミリーとして枠を埋める→千夜がリング戦不参加暗殺√確定→モスカの分暇なザンザスが暗殺へ→共犯者としてモスカの動力源に(結果リング戦参戦というバグ)
生命エネルギーの急激な枯渇とザンザスが抱えている愛憎により、モスカという箱を通してifの自分・黒化をインストール。

ザンザス
風紀委員が9代目救ってしまう→挑戦と復讐の機会が無くなる→暗殺対象の彼女のボンゴレへの憎悪と共鳴→9代目への不信が復讐心へ→炎の封印を解く為に彼女を動力源へ→ボンゴレへ叛逆


20220310

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