短編 | ナノ

沢田家長女 67


 ◇

「リボーンおじさま……」
「まずいことになったな」
 リボーンが考えるように呟く。
 ボンゴレリングが原型を取り戻したとは言え、全員の消耗は激しい。加えて、迂闊に近付けば炎を吸収されて干からびてしまうだろう。真っ先に生贄となった、白蘭の本当の部下達のように。
「骸、何かわかりそうか?」
 観測を続けていた骸へと、リボーンは声をかけた。
 D・スペード由来の魔レンズは、元々は義眼だ。今は世界を覗き込むものとなっているが、本来の使い方は違う。炎を通じて自身の眼球、脳と接続することであらゆるモノを視覚化し精密分析をすること。かつては、特殊な能力を持つ眼球を加工した礼装だった。
「ええ、ある程度は」
 炎が切れた魔レンズが匣に戻る。
 途端、ぼたりと音を立てて血が落ちた。
「ッ……おやおや、」
「骸様!」
「問題ありませんよ、クローム」
 そう囁く骸の眼球から涙のように血があふれた。
 魔レンズは深く視ようとすればするほど、レンズと眼球の接続が強まり解除の際の危険性が増す。加工され年月を経てもなお、この魔眼はまだ生きていた。
 クロームだけではその本来の使い方に気が付かなかっただろう。それでも、初めに試したのが自分で良かったと骸は思った。
「あれは実体ではありません。白蘭という匣を失った事で、人の肉体に圧縮されていた生命エネルギーが開放され膨張を続けている。……現象や、魂そのもののようなモノです」
「それは……倒せるものなのか?」
「通常の死ぬ気の炎を用いた攻撃では無理でしょうね。白蘭の吸収能力を超えた炎圧か……彼に通じると思わせるような攻撃であれば、可能性はあるかと」
 ただし、その場合この場にいる人間の生命は保証されない。空を覆うほどの巨大エネルギーと同等のエネルギーがぶつかれば、辺りは更地になってもおかしくはないのだ。
「……今の白蘭に、肉体はないのですよね?」
 青く澄んだ瞳が骸を見上げた。巫女である少女の肉体は常人よりも柔軟にできている。大きな魂を収めたとしても、ユニに死を選ぶ程度の自我(よぶん)は残る筈だった。
「ええ。ですが、ソレはおすすめしませんよ。何よりユニ、あなたの隣の男が認めないでしょう」
 ユニが降り仰ぐ。何かを堪えるような目をしたガンマが、彼女を見下ろしていた。一度は共に消滅する覚悟を決めた男ではあるが、今度は供をすることができないことを察していた。
「それでも、私は……」
 言いかけて、ユニは一瞬、覚悟が揺らいだ。言葉が続かない。しんとしたその場に、隙間を埋めるように静かな声が落ちた。
「方法なら、他にもある」
 奥で寝かされていた少女が起き上がる。戸惑うような青い目と燻んだ黄金が交差する。彼女は安心させるように微笑むと「まだ未来は見えてる?」と問いかけた。
「……はい。世界は元に戻り、彼が霧散させられたことだけは」
 ならば、必ず成功すると彼女は確信した。
 ユニの一族は千里眼や未来視に近い能力を代々に渡り伝えている。映画のセルを一枚写し取ったようなワンシーンではあるが、ユニが見るそれは、いつかの未来で必ず起こる事象となる。
「身体は平気なのか、名前」
「ええ、造りは頑丈なの」
 そう冗談めかして少女が笑うと、同じ顔をした二人の男は同時に眉を顰めた。
「それで、方法は?」
「私がトゥリニセッテに再接続すればいい」
「白蘭は倒せるのか?」
「……ああなってしまった以上、人の手で倒すことはできないでしょう。だから、私が連れて行きます……誰も辿り着くことのできない宙(ソラ)の外。最果ての廃棄場所(らくえん)へ」


20240130

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