ADVENT | ナノ
ADVENT / 
01

「君たちにとっておきの秘密を教えよう」

×××

 アカデミーもない休日の朝。普段は目覚まし時計がけたたましく鳴る少しだけ前の、朝焼けで空が染まる頃。
 眠る弟よりも早くに目が覚めた#ナギサ#は、健やかな寝息を立てる弟を揺らさぬように少しだけ狭くなったベッドからそろりと抜け出した。
 途端、軋む床の音にぱちりと開かれたよく似た青が二つ。やがて風船がしぼむようにゆるゆると下がる瞼にもう一歩踏み出せば、きぃと甲高く鳴く床材にまた青がぱっちりと開く。少しして、またゆっくりと閉じる姿はそういう玩具のようで、ナギサはもう一度床を鳴らした。

「おはよう、ナルト」
 それからお湯を沸かし、のんびりと過ごす間に時計の針は回り、陽は森の上へと顔を出していた。
「んあと五分……てばよ」
「ナルト、起きてってば。もう行かないとセール始まっちゃう」
 のっそりと起き上がったナルトからかけ布を引き剥がし窓を開ける。ぶわりと大きく吹き込んだ風に、部屋に増え続ける植物達が喜ぶようにさわさわと葉を鳴らした。鼻腔に広がる爽やかな葉の香りは心地よく、穏やかに起床を促してくる。
 ようやく起き上がったナルトを急かすように身支度を整え、二人同時に印を結びチャクラを練る。
 ぽん、と軽やかな破裂音の後、煙から飛び出した二人は賑やかな町の方へと駆け出した。


 ×××

 忍になりたい。
 火影になりたい。
 強くなりたい。
 誰よりも偉くなりたい。

 分身の術すらまともに出来ないまま、ナルトは悪意の海で吼え続ける。声を上げることすら忘れた、たった一人の家族のために。
「また落ちちゃったね」
「クソぉ!」
 何度目かのアカデミーの卒業試験に落ちた。ナルトは不完全な分身の術で、ナギサは不安定な変化の術で。
 二人揃っての不合格はアカデミー教師の中ではもはや馴染みつつある。ドベの親なしきょうだい。迎えの親たちから向けられる冷たい視線と、わざと聞こえるようにかけられる罵倒にはもうすっかり慣れてしまった。
 けれどそれも、今日で終わりだ。これがナルト達に残された最後の卒業試験だった。ついに、二人卒業できないままアカデミーの課程を終えてしまったのだ。
 でもきっと、本当に上手くできないのは自分だけなのだろうとナルトは察していた。その余裕を見下されているように感じたのは初めの一度目だけ。
 互いのためと離れ離れで戦うことを嫌ったのはナルトが最初だ。もしも試験の課題が逆だったとしても、ナギサは失敗したし、ナルトも失敗しただろう。
 今度こそ、苦しいことも辛いことも分け合って、二人一緒に。ナギサがナルトの隣に戻って来た時、そう約束をしたから。
「帰ろう、ナルト」
「……おう」
 だって、たった二人きりの家族なのだ。本当に頼れるのは互いだけで、理解できるのも互いだけ。生まれた時から一つのものを分け合ってきたから。
 だから、二人一緒でないと意味がなかった。


20230302

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