僕らの終焉紀行 | ナノ
安全圏から動けない
高校に上がって、同じクラスになって、忘れていた記憶が一気に蘇った。
それと同時に地獄とも呼べるあの場所に置き去りにした罪悪感とか、それでも再び会えた喜びとか、色んな感情も湧き上がって、頭がごちゃごちゃになって、あの子の眼が私を見る事は無かったけど、見つけたその日は夜通しで泣いていた気がする。
「―――織姫聞いてる?」
「えっ?あ、ごめんねたつきちゃん、ちょっとぼーっとしちゃった」
ぼんやりと窓の外、正門をくぐったあの子を眺めていたら、たつきちゃんに呼ばれてはっとした。
「誰を見てたのかなぁ?」
「ち、千鶴ちゃん!!」
ニヤニヤ笑いながら千鶴ちゃんが私の肩に顎を乗せて、さっきまで私が見てた所を見ようとする。
「だっ、だめだってば!!」
「よいではないかよいではないか〜」
「お前はお代官様か」
たつきちゃんが千鶴ちゃんに突っ込む。
その隙に私は千鶴ちゃんに抵抗しながらこっそりさっき見てた所を見た。でもそこにはもう誰もいなくて、ほっとしたように肩の力を抜いて後はたつきちゃんに任せる事にした。
* * * *
「…で、誰を見てたの?」
お昼休み、朝の事を千鶴ちゃんにまた聞かれた。
臆病な私は本当の事が言えなくて、オロオロして返答に困っていたら、
「どうかしたのか?」
後ろから黒崎くんの声がして反射的に振り返る。その時、全ての感情を削ぎ落としたかのような冷たい光を宿した瞳と目が合った。でもそれは本当に一瞬のことで、私が識くんを正面から見たときにはもう、いつもの朽葉色の瞳が柔らかく優しい表情で私を見ていた。
「おはよう、織姫ちゃん、たつきちゃん、千鶴ちゃん」
安全圏から動けない
だって、みんなと一緒にいればどんな風に思われてても、みんなと同じように笑顔を向けてくれるから。
それはたとえどんなに私を憎んでいても、表面だけの笑顔でも私に向けてほしいという、私の我が儘。
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