僕らの終焉紀行 | ナノ

煙草の煙が目に染みただけ







「識…わたしは、あなたに隠していることが沢山あります」

「だろうね」

間髪を容れずに返ってきた言葉に微苦笑する。

「…わたしは、昔とある方に仕えていました」

わたしにとってあの方は全てで、あの方に拾われた身でありながら、あの方をずっと慕っていた。

「そのうちわたしは、あの方の代行者としてあの方が歩んだ道を歩むようになりました」

多分、それが最初だ。
詞(ことのは)、というわたしと同じ名の一振りの刀をいただき、今の死神と似た事をしていた。

「だから、多分わたしは一番初めに生まれた死神なのでしょうね」

ちら、と隣を見れば識は彼がいるかもしれない天を見上げている。

「ご存知の通り、わたしの名は言ノ葉です。ですが、刀の銘は詞です」

あの方が意図したものかは、もう知り得ないけれど。

「……、」

振り向いた識は、その仕組みに気付いたのか眉に皺が刻まれている。

「元より神のお造りになった刀ですから、ただの魂に使いこなせるわけもなかったのですが…不思議な事に、使えば使う程、わたしと刀は同調していきました」

異変に気がついたのは、完全にわたしと刀が同調し一心同体となった頃だった。
「わたしの身体は、刀に侵食され始めました。元々器のない魂ですから、魂のない器に入り込もうとするのは当たり前ですよね」

同じ名だったのもあったのだろう。

「完全に刀となってしまった頃には、もうあの方も身罷られた後のようで…わたしは、宝剣として祀られてしまいました」

「…神さまなのに?」

「……、…ああ、あの方は現世の神とは少し違いますから」

霊子に満ちた世界ではあったけれど、結界に使った霊子はあの方を形作る霊子だったらしい。

「だから、そうですね…世界に溶けた、と言った方が適切かもしれません」

今となってはもう、あの方がわたしをどうしたかったのかなんて分からない。わたしを刀身に変えて斬魄刀にしたわけは、幾千年考えても見つからなかったのだから。

「それが、最初≠フわたしでした」

「最初…?」

自嘲のような、憫笑のような、そんな笑みを浮かべて言ノ葉は口を開いた。

「わたしは斬魄刀ですが、斬魄刀ではありません。ですから、主が亡くなればまた次の主を捜してしまいます。…器が、大きすぎたのでしょうね」

暗い瞳に、意味が分かった。

「最初は順調でした。それなりの代償はあるものの、何しろ唱えた言葉が事実となるのですから。ですが、所有者が相次いで失踪したとなると…やはり問題になりました」

最初の所有者で刀は満たされず、次の所有者も同じように取り込んだのか。

「所有者の霊子を喰らい御霊を蝕む刀ですからね。わたしは直ぐに封印されました」

それでも能力に惹かれた死神たちは言ノ葉を使い器を満たしていったのだろう。

「君も、その一人なの?」

分かっていながら彼女が使うとは思えない。

「……ほんの数百年前でしたか、わたしがまだ貴族の娘でいた頃、父から懐刀として短刀を貰いうけました」

言ノ葉は懐かしむような、そんな眼差しで遠くを見ている。

「父の甘言を真に受けたわたしは、今までの所有者と同じ末路を辿りました。…そもそも、一般には知られてはいけない代物です…わたしのような箱入り娘がそれを知っている訳ありませんので」

苦笑気味に笑った言ノ葉に、ふと尋ねてみた。

「前さ、神と呼ばれる前のーとか言ってたけど、それっていつ頃なの?」

思い出すように目を閉じて、そのまま口を少しだけ開く。
しばらくしてから、言ノ葉は目を開いた。

「最初から二番目か、三番目でしたか…心の清らかな所有者だったようで、世のため人のためと文字通り我が身を削ったおかげか、当時宝剣扱いだったわたしはその所有者共々神格化されたのです」

そしてそれがそのまま口伝えで語り継がれ、神話のような存在になったそうだ。

「とは言っても、魂を喰らう刀ですから…祟り神のような伝説ですよ」

「そっか…」

寂しそうに笑う言ノ葉に、それ以上は何も聞けなかった。














煙草の煙が目に染みただけ














(どこか遠くで雷鳴が響いた)

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