僕らの終焉紀行 | ナノ
僕だけを見てよ
彼女は言わば、私の使いのようなものだった。この空間に生まれ、輪廻の歯車から外れてしまった哀れな魂。私が拾ったのは本当にただの気紛れだったけれど、彼女は与えられた知識を真綿が水を吸い込むような早さで吸収していったから。
だから、私は彼女を代行者として育てる為に更なる知識を与え、力の扱い方を教え、私の持てる全てを彼女へと継承させた。
生者の世界へ介入はせず、ただ器を無くした魂を掬い上げ、この空間へと導き再び輪廻の歯車へと戻す。そして力を以て、負の魂が正の魂を喰らい過ぎぬように、また負の魂が減りすぎぬように。常に均衡に注意し見届けるべし。器無き魂に善悪は無い。
私情など私には一切関係ない。ただ天秤を見て、無作為に均衡を保つ。
それが私の役目であり、これからは彼女の務めとなる。
「お前にこれを授けよう」
渡したのは一振りの刀。懐刀と呼ぶのが相応しいそれには、私が消えた後でも私の加護が受けられるよう祝詞が刻まれている。
「お前に自覚がある限り、これがお前を護ってくれるだろう」
ちりん、と鈴の音を響かせ彼女はその刀身を眺めた。
「―――それの名は、」
僕だけを見てよ
(口の端に笑みが浮かんだ)
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