僕らの終焉紀行 | ナノ
どうせ最後は死ぬんだから
手を伸ばしても、届かない。
その先に、掴みたいものがあるのに。
届かないと知っていても、それでも伸ばさずにいられなくて。
だからそうして、無駄と知りつつ手を伸ばす。
手を伸ばして、そしてその手に―――――…
「―――っ、」
飛び起きた。平時より頭が重いような気がするけれど、なんだろう。そんなことより喉に何かがつっかえているのか、苦しくて息が出来ない。
「うっ、がはっ…!」
込み上げてきた吐き気に従い、そのまま喉でつっかえている何かを吐き出した。
「っ…」
普通の嘔吐物よりも粘着質で、何より気味の悪い色に思わず息をのむ。
どす黒い紫色をしたそれは、畳の上に落ちる寸前煙となって空気に溶け込んでいった。
≪強力な睡眠薬の一種ですね。…一歩間違えれば死ぬ危険もある劇薬≫
の、はずなのですが。と、音もなく現れた言ノ葉が冷静に分析をし始める。
「何かあった?」
≪いえ…それより識、あなた相当寝てましたね≫
呆れたような言ノ葉の表情に意味が分からず首を傾げた。
≪…ここ、現世ではありませんよ≫
溜め息混じりに言った言ノ葉の台詞に一瞬動きが止まる。
「どういうこと?」
≪わたしの推測でしかありませんが…おそらく、尸魂界が関わっているかと≫
ソウルソサエティ。その単語に、何故か心がざわついた。
どうせ最後は死ぬんだから
(理想の最後を迎えられるよう)(今はただがむしゃらに生きたい)
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