僕らの終焉紀行 | ナノ
未来とさよなら
≪…毒、いや薬ですか≫
身体から出る煙を指で絡めながら、言ノ葉が呟いた。
≪わたしの影響で鬼道の類が効かないからと、随分思い切った事をしますね、彼は≫
小さく溜め息を吐いた言ノ葉は、眉根を寄せ伏せ目がちに俯いている。
多分、喜助さんの事を考えているのだろう。昔の知り合いだと、前に言っていたし。
「…どう、解毒出来そう?」
≪時間は少しかかりますが、出来ない事はないでしょう≫
そっか、と言い、言ノ葉が詠唱破棄で治癒の呪文を唱えるのを眺める。
「……、…置いてけぼりにされたんだよね」
空へと昇る毒々しい色の煙を見ながら、ぼんやりと呟いた。
≪…でしょうね、おそらくは≫
空と言っても今いるこの場所は精神世界だから天も地も無いのだけれど。
初めて会った時と同じだ。空間に浮かぶように僕は横たわり、その脇に言ノ葉がいる。ただ、真っ白な空間ではなく、今は海中のような雰囲気だ。うっすらと青い光が揺らめき、煙が昇ってゆく上の方がきらきらと光っている。
≪目が覚めたら必ず吐き出してください。…おそらくこの煙と同じ色をした塊のようなものが出てくる筈です≫
「どれくらで目が覚めるかな」
≪どうでしょう…身体に毒が回ってしまった後ですから、すぐに目覚めはしないでしょうね≫
「…解毒が終われば、こっちでは身体は動くんだよね?」
≪……、…鍛錬ですか≫
心配そうに、言ノ葉が問う。
「戦力外なら、強くなれば戦わせてくれるかと思って」
そう答えると、少し悩むような仕草をした後、言ノ葉が口を開いた。
≪主だからと贔屓してるわけではありませんが、識は戦力外通告される程弱くはありませんよ。…何か、戦わせたくない理由があるのでしょう≫
「…やっぱり、藍染さん絡み?」
≪さあ、そこまでは≫
そう言いながら、言ノ葉は困ったように微笑んだ。そして、少し躊躇うように識、と名前を呼んだ。
≪…どうしても戦いたいと言うのなら。目覚めるまでに、あなたにさせなければいけないことがあります≫
未来とさよなら
(どんな事だろうと)(やり遂げてみせる)
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