僕らの終焉紀行 | ナノ
「愛してる」って言えば満足ですか。
正直言うと、複雑な気分だった。可愛い妹を不良に嫁にやるような、そんな気分。
「お待ちしてましたよ」
店の外に感じた二人分の霊圧に、扉を開ける。
本当は、初めて会った時から彼が識が求めていた声の主だというのは既に分かっていた。それでもやはり感情は別物で。識を攫ってこの戦争に巻き込んだくせに。
そう思って、敵と見なしていた破面は、いつの間にか黒髪に翠の瞳をした色白の、ごく普通の青年に変わっていて。
「喜助さん、」
「…話しは、中でゆっくりしましょう」
離れていたのはほんの僅かな時間だった筈なのに、顔つきがどこか男らしくなった識に、時間の流れを感じる。
「アナタも、歓迎しますよ。…ウルキオラさん」
驚いたような顔をした彼に、こっちが驚いた。変わったのは見た目だけでなく中身もらしい。
邪魔する、と少し頭を下げた彼の背中を見送って、引き戸を閉めた。
「……、…匿うのなら、完璧にッスよねぇ」
破面は自分が攫った事を仄めかすような言動をしていたが、井上織姫同様、識も自ら藍染側へ行ったと尸魂界側は見なしている。
そんな状況下で、外には藍染。そして判断を下した総隊長達がいる外界には絶対に知られてはいけない。
「…これで、いいんスよね…?」
発動した結界は、気配と霊圧を完全に遮断させるもの。
「ねえ、言ノ葉サン」
言ノ葉。尸魂界の神話に登場する、その能力故に禁忌とされた斬魄刀の名。
≪ええ…協力、感謝します≫
鈴の音のような声に横を見るも、姿は見えない。
「いえいえ。大切な弟の為ですから」
笑顔を浮かべても、返ってくるのは相変わらずの素っ気ない返事。そして二言目には識の所に戻るという言葉。
「…」
本来は、掟により見つけ次第所有者共々処刑が原則だが、それをしないのは研究者としてのプライドと、尸魂界に対する反抗心からで。そして何より、彼女はアタシに事の真相と、識のことを教えてくれたから。
「まあ、識の性格ならそうやたら滅多に能力の乱用はしないと思いますし」
すでに、アタシにとっては弟のような存在となった識。弟を守るのは、兄の役目なのだから。
「何も、心配する事なんてありませんよ」
喜助さん、と自分を呼ぶ声に、前と同じように間の抜けた返事をして、二人の下へ向かった。
「愛してる」って言えば満足ですか。
(今度こそ)(彼に、彼らに幸せを)
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