僕らの終焉紀行 | ナノ
終
いつだってそう。
正しい≠フは『主人公』。
いつだってそう。
悪い≠フは『敵』。
いつだってそう。
物語は主人公を中心に動き仲間やヒロインとの絆を深め、最後はめでたくハッピーエンド。
いつだってそう。
物語は悪にされた敵を決して生かしてはくれない。彼らにだって帰りを待つ誰かがいるはずなのに。
本当、なんて素敵でなんて滑稽でなんて偽善的でなんて愚かなお話なんだろう。
――――でも、でもね。
世界は、必ずしも主人公が中心じゃないんだよ。
『敵』と呼ばれ『悪』と罵られる彼らだって、仲間もいるし大切なヒロイン的存在だっている。
一番最初に関わったのはそっち。弱肉強食の循環に手を加えて歯車を勝手に狂わせたのもそっち。
ねえ、だから僕はいつも許せないんだ。正義の味方≠チて奴が。
正義なんて、時と場合によりころころ変わるだろう?
それはもう、人の心のように簡単に。
それなのにさ、お前たちはいつも正義を掲げて何もしてない彼らを殺して、殺して、殺して。
反撃したらしたで余計に束になってかかる。本当、救われないよね。
そう思わない?
「―――――黒崎、一護」
一通り言い切って、今にも虚閃を放とうとする完全に虚と化した旧友は、姉が愛し信じた男は、言葉さえも通じなくなっていた。
人によっては恐怖さえ感じる光景も、今完全にキレてる僕にしてみれば、叫び声を上げて威嚇するだけにしか見えない。…滑稽過ぎて、笑えてくる程に。
つまるところ、文字通り、今の僕は精神的に無敵なんだよね。
「だからさあ、返してくれないかな」
僕の大切な人を。
とりあえずまずは、早くその汚い足を退けろよ、化け物が。
どこか遠くで、どこまでも甘ったれた姉の「逃げて」と叫ぶ声が聞こえた気がする。
顔を足で踏まれ、左肩から右わき腹にかけて刀傷のある瀕死のウルキオラも「逃げろ」とただ一言静かに告げた。
ウルキオラや姉さんの言うとおり、非力な僕は早く逃げた方がいいんだろうね。
でも、
「逃げないよ、僕は」
否、逃げられない。
「今のコイツは正気ではない。いくらお前だとしても、お前だと認識されずに殺されるのがオチだ」
いつも冷静な彼は珍しく焦っているのか、普段よりも饒舌になっている。
確かに今の黒崎一護なら、僕を殺すことなんて赤子の手を捻るよりも簡単に出来るだろうね。…だとしても、僕を残して君が死ぬ姿を見るのはいやなんだ、本当に。
「僕には帰る場所も、逃げる場所もない」
だって、僕が帰る場所を作ってくれたのはあなただから。
こうしてる間にもあいつの頭部の角に赤黒い光が集まっていく。
ねえ、全国の好きな人と引き裂かれそうになってる人達。今だけでいいから、僕に勇気をください。覚悟なんてこっちに来た時からとっくに出来てる。だから、死へと誘う赤い光が向けられている、今にも死にそうな彼の胸へ飛び込む勇気を、彼と共に散る勇気を僕にください。弱虫の僕は、あと一歩が踏み出せないんだ。
「それでも、早く逃げろ識」
「っイヤだ!
…もし、もしも僕が帰る場所があるとしたらそれは、」
あなたの所なんだよ、ウルキオラ。
「…やはりお前は、変わった人間だ」
「自覚はしてる」
やらない後悔よりも、やる後悔の方がいい。
赤い光が放たれる瞬間、僕は死に物狂いで走って、走って、呆れたように穏やかに微笑む彼の胸へ飛び込んだ。
最期まで共に、
(もう一人ぼっちはいやなんだ)
(こいつに笑って生きてもらいたかったのは事実。でも、俺のいない世界で誰かと笑ってほしくなかったのも事実)
(焼けるような痛みの中、)(ため息と共に腰と後頭部に回された腕がたまらなく嬉しかった)
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