僕らの終焉紀行 | ナノ
人斬り刀
「っ、くそ」
ぐらついた身体に舌打ちをする。短時間で霊圧を使い過ぎたらしく、もう立ってるのもやっとだ。
目の前に現れた一護。仮面の亀裂は修復されたようで、もう無い。
振り下ろされる刀に、悔しくて睨みつけた。
「識」
聞こえた低い声に、陰った視界に目を見開く。
一旦離れると、耳元で聞き慣れた声が聞こえたと思ったら、一瞬であの子たちがいる所に連れて来られていた。
「…此処にいろ」
あとは俺がやる。
そう言ったウルキオラは、翠色で縁取られた霊圧の槍を形成し、一護に向かって飛んだ。
「…井上くん、君は…」
石田雨竜。院長先生の、息子さん。
「久しぶりだね、石田くん」
「……」
昔、一度だけ病院で見かけた事がある。
「僕は君たちの敵じゃない」
けれど、味方でもない。
そう言ったら、どこか安心したように良かったと、言った。
「…井上さん、君の心配をしてたよ」
泣きそうな顔で俯くあの子を見やる。
「…そう」
「話さないのかい?」
「あの子は…姫ちゃんは、大丈夫だよ。僕らが思ってるより大人で、まだ子供だ」
名前に反応したのか、泣きそうな顔の姫ちゃんと目が合う。
「振り回されたら、駄目だよ」
僕らのように。
ウルキオラが倒れたのを見て、動かない身体に鞭を打って走り出した。
* * * *
俺は、負けるのか。
「ウルキオラ…!!」
泣きそうな、識の声。前と違って予想以上に早く倒れてしまった。
負けないと誓って、あれだけ言って、このざまか。
「っ、『防御』!!」
識の言霊よりも早く、虚閃が放たれる。
「来るな!」
怯まず、それでも走り寄ってくる識が、重なった。
…また、護れずに消えるのか。
そう思ったら、血が燃えるように熱くなって。胸の孔に何かが吸い込まれたのを見たら、赤黒い光が身体に触れる前に消えていった。
「……、…姿が…」
「どう、なってるんだ…」
虚閃は、受けた。その証拠に識には細かい傷が出来ている。
それなのに、俺はまだ生きている。
それだけでなく、姿が、刀剣解放前に戻っている。けれど、まだそれだけじゃない。
…孔が、無い。虚の証である孔が消えている。
「どういう…」
「危ないっ!!」
刀が俺に振り下ろされた。
咄嗟に飛び出した識に刀が触れ、僅かに傷を付けた。
「…何だ?」
僅かに血の付いた刀が、止まった。その隙に識を引き寄せ、片手に霊圧を集中させる。形成した槍を素早く識と刀の間に滑り込ませた。
「…どうした、黒崎一護」
奴の刀の切っ先は、微かに震えている。
「…一護?」
目線の先は、俺の腕の中にいる識だ。…傷つけたと認識した事で、少しくらいは理性が戻って来たのか。
「黒崎もう止めろ!!刀をしまえ!!」
仲間の滅却師が叫ぶ。
「…それとも動揺しているのか。…どちらにしても、都合が良い」
斬りつけた仮面は、今度は容易に割れた。
人斬り刀
(戦意喪失)(斬ったものは誰だったのか)
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