僕らの終焉紀行 | ナノ
隠し持ってたカッター
大丈夫、勝てるよと、そう、何度もお互いに言い聞かせていたけれど。
本当は僕らが一護に勝利するなんて出来るわけがないことはお互い理解していた。
ただ、現実から目を逸らしたかっただけで。
「何、やってんだよ…」
一護の胸に虚閃を放った。
そうすることによって、この後がどうなるか知っているはずなのに。
「…ウルキオラ……?」
ただの気のせいかもしれないけれど、ふと、目があった気がした。
≪…変わりましたね、彼≫
「言ノ葉…」
≪彼は、信じてみたいのではないですか?≫
奇跡というものを、と、言ノ葉は完全虚化した一護を眼を細めながら見る。
「そんな不確かなもの、リスクが大きすぎるよ…」
それで死んだら、馬鹿みたいじゃないか。
≪それでも、信じてしまう…違いますか?≫
「半信半疑だよ」
奇跡は余り信じてない。
「でもウルキオラが言うなら信じるよ」
手の中の懐刀を見る。言ノ葉は、斬魄刀が存在する前から存在していた古い斬魄刀だと言っていた。それなら、現代語ではなく古文や昔の諺、慣用句、四字熟語などの方が効果があることはすぐに理解できる。知恵で勝てばいいとは、こういうことだろう。
目線を上げれば、ウルキオラが戦っている。このまま戦わせたらまた、同じことの繰り返しだ。だから、もういいよね。
「死んだら、許さないからね」
結界の外に出ると、視界が歪んだ。視界が歪むほどに厚く作られた結界は、そう簡単に破られたりはしない。
「…いくよ、言ノ葉」
刀に戻った言ノ葉に呼びかけると、返事をするかのように、ちりんと、鈴の音が鳴った。
* * * *
姿の変わってしまった嘗ての親友を見る。
本当に、変わってしまった。内も外も、まるで正義の味方のようだ。
あれだって、あの子が呼びかけたから、あんな姿になってしまった。
「…ウルキオラに触るな!!」
いつかの台詞。お腹に力を入れて、声を張り上げる。
護りたいという強い願い。それは僕だって同じさ。
「…この、化け物っ!!」
突然現れ、叫んだ僕にみんなが反応するよりも早くこっちに向かってきた一護に向かって始解の口上を言う。
「――響き渡れ、言ノ葉!!」
口上に合わせ、構えた刀が空気に溶けるように消えた。
「前の詞、檻猿籠鳥」
刀が首筋に触れる寸前、放った言葉が鎖となり、鳥籠のような形に変化し対象を閉じ込める。
まずは、足止め。
「継の詞、不協和音」
距離を取りながら次の詠唱を唱える。
キン、と高い音が響き、一護の面に亀裂が走った。
霊圧を一定に保てなくなったのだろう。
「末の詞―――」
がしゃん、と鳥籠が壊れた瞬間。
「――土崩瓦解」
言葉を核とし、圧縮され刃のようになった霊圧が土砂崩れのように降り注いだ。
「……、…やっぱり駄目か…」
多少の傷は確認出来るけれど、やはり倒すにはほど遠い。
それなら…ちょっと早いけど、いいよね?
応えるように、ちりんと、鈴の音が響いた。
「卍解――――」
紺青色の光が辺りを包む。
僕だって、あの頃とはもう違うから。
* * * *
「―――言代言ノ葉主」
その言葉が聞こえた瞬間、視界が青く染まり、海の底にいるかのように息苦しくなった。
「っ、まさか、識くんも死神…?」
すぐに波が引くように霊圧が収まっていく。
見えてきた識くんは、何か文字のような鎖みたいなものを身体全体に纏い、首にも青い環が出来ていた。
「識くん…」
凄い、と石田くんが呟く。
いくら黒崎くんが刀を振り下ろしても、青い壁のようなもので識くんまで届かない。
でも、何故か卍解してから識くんは、攻撃をしようとはしない。まるで、黒崎くんの気を引くように動いてる。
「…?」
ふと、視界の端が明るく光った気がして、振り向いた。
「――――……青い、双天帰盾…」
深い青色をした膜が、彼を守るように覆っているだけでなく、傷が有り得ない速度で治っていく。
「あれはどう見ても斬魄刀だが…彼も、死神なのか…?」
石田くんも気が付いたみたいで、青い膜に目を向けた。
「あれだって…いったいどうなってるっていうんだ」
黒崎くんがああなって、彼が傷を負って、彼を守ろうと識くんが戦っている。
「私の、せいだ…」
私が黒崎くんに助けを求めたりなんかしたから。
「強くなるって、今度は私が助けるって決めたのに…!!」
私はどうすれば良かったんだろう。最初から着いて行かなかったら、大人しく現世にいたら、こんな事にはならなかったのかな。
ふらついた識くんに、黒崎くんが刀を振り下ろす。
「ぁ…」
止めてと叫んだ声は、かすれて言葉にならなかった。
隠し持ってたカッター
(後ろの方で)(ぱりんと何かが割れる音がした)
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