僕らの終焉紀行 | ナノ

針千本、飲ませるよ






生活を荒ませた程の激情は、いつしか穏やかなものになっていた。憎悪の対象であったそれは、嫉妬と羨望が入り混ざったものだと気が付いたから。
それでは今は何かと聞かれたら、何も思い浮かばないけれど。あえて言葉にするのならば、憐憫が一番近いような気がする。
少なくとも、高校に入ってから聞いた彼女の身の上話は、素直に可哀想だと思っていた。
たとえ血の繋がった家族だったとしても、他人事のように受け止める程に離れていたのだと、安心できてしまった。
あの子には兄さんがいて、僕には喜助さんがいる。でも兄さんは死に、喜助さんは生きている。

≪時間はおそらく、もって後一時間程度です≫

「待て、お前は何を知っている」

眉間に皺を寄せたウルキオラの霊圧が僅かに上がる。

≪…二人共、夢を見たでしょう≫

自分達が命を閉ざすその瞬間を。と、眼を伏せた言ノ葉が、淡々とした声色で語り出した。

≪識、あなたは並行世界で起きた事実と。そしてウルキオラ・シファー、あなたは未来で起こる出来事と考えた≫

しかし、と続ける。

≪どちらも正解で間違いです。正しく言うのなら、これは――逆行。時を遡り、ある地点から再びやり直しをしたと言うのが一番適切です≫

「逆行…」

世界を巻き込んだ時間軸の逆行。言ノ葉は、自分の力を使えば可能だと言った。
でも、誰も逆行した事に気がつかない。僕も、ウルキオラも、死神たちも。

「ある地点とは、何時の事だ」

それなのに、一つだけ、心当たりがあった。

≪…≫

思い出したくもない、既に記憶が曖昧な物となったあの日。記憶がごちゃ混ぜになっていた状態の僕が唯一覚えていたこと。

≪…気がついたようですね≫

「…死ねばいい=c僕は、あの時本気でそう思ってたんだ」

何も無かった筈の僕が、逆行した事により言ノ葉の能力を使えるようになって、殺したんだ。
どれだけ酷くても、実の親なのに。

≪ですが、同時に生きたいとも思った≫

死の瀬戸際に立って、生きようと足掻くのは生物の生存本能として当たり前の事だと、言ノ葉は言う。

≪…それに、過程がどうであれ、本来あの日、あの家は少なくとも二人以上死人が出る運命でした≫

あの日、連続強盗犯がとある家を標的にしていた。家人が居ない時間帯のはずだったのに、偶然その場に居合わせた家人ともみ合いになり、家人と強盗犯数人に近所の住人を巻き込んだ殺傷事件となる筈だった。

≪もちろんあなたも、軽症ではありませんでした≫

だからと言って、自分が助かればそれでいいなんて事はないはずだ。
ぐるぐると、頭に浮かんでは消える言葉。結局、どうすればよかったかなんて、僕には分からないのだろうけれど。

≪ですが、今となっては過去のことです≫

今話すべき事はそんな事より、これからどうするかということ。

≪この後の展開は、大体はもう思い出しているでしょう≫

一護が来て、戦って、それで僕もウルキオラも死んだ。

≪…あとは二人で、考えた方がよさそうですね。どの選択でもわたしは応援しますから≫

そう言って、言ノ葉は透けるように消えていった。

「…俺は、戦う」

ウルキオラが呟くように言った言葉に、心臓が強く鳴る。
本当は戦ってほしくない。傷付かないでほしい。
けれど、僕を真っ直ぐに見つめる翠の瞳は、今まで見たことがないくらい強い光を放っていて。

「今度こそ、負けるわけにはいかない」

そんな眼で、お前を失わない為にも、なんて言われてしまったら、反対なんて出来ないのに。

「…ぃ、」

狡いよ、ウルキオラ。

「識?」

「いや、何でもないよ」

でも、僕だって見てるだけはもう嫌だから。

「一護が理性を無くしたら、僕も手を出す」

危ないからと戦線離脱させられる程、僕はもう弱くはない。

「僕だって、ウルキオラを失いたくないから」

失いたくないのはどちらも同じなんだ。













針千本、飲ませるよ













(それじゃあ、)(行こうか)
(無意識に繋がれた手は)(とても暖かかった)

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