僕らの終焉紀行 | ナノ

普通に笑ってよ




あいつが変わったのはいつだったか。
でもその変化は誰も気付かなくて、誰も気付かないからこそオレはいつも不安になる。

「帰ろう、一護」

微かに上がった口角に柔らかく細められた眼。まるでこの世がいつ終わってもいいような、穏やかな、もっと言い方を変えれば、全部諦めて腹をくくったような、そんな笑顔。

「あぁ、そうだな」

片手で鞄を掴み廊下で待つ識の下まで少し早足で行く。
その時一瞬、視界に入った井上の顔は酷く泣きそうな悲しげな顔で、でも井上と認識するよりも早く元の笑顔に戻ったそれを気のせいだと信じ教室を出た。

「識が教室まで迎えにくるなんて珍しいな」

「そうかな?」

それよりさっ、この後新しいアイス屋さん寄ってかない?とオレの数歩前を向かい合わせになるように歩きながら、識は話しを変えた。

「オレはいいけどよ、バイトの時間はいいのかよ」

「あーうん。今日は馴染みのお店だから多少適当でも大丈夫」

お客さんも来ないしね。と何でもないように言ったけど、それってもしかして潰れかけの店なのか。
そんな店でバイトして飢え死にしないか心配になったが、いざという時はオレが拾おう。そう固く決意した。まあ、大丈夫だとは思うけど。




  * * * *




「あ、ここだここ。新しいアイス屋さん」

様々な店が立ち並ぶ商店街の中央。かなりの数の女子高生がたむろしているその奥に、その店はあった。

「んじゃ頑張って並びますか」

どこか楽しそうに笑った識と女子高生に混ざり並んでから三十分。ようやく注文が出来た。識はキャラメルバニラとレアチーズケーキとかいう甘ったるそうなカップの二段アイスを頼み、オレはビターチョコアイスと最後まで識が悩んでたチョコチップミントのコーンの二段を頼んだ。
出来上がったそれを持って近くの公園のベンチに座る。後ろに立つ桜の木が日を遮ってちょうどいい感じに涼しい。

「キャラメルバニラ、美味いか?」

「美味しいけど、ちょっと甘過ぎるかも」

やっぱり女の子用だね、と苦笑いする識につい「ここのチョコチップミント結構美味いぜ。食うか?」だなんて言ってしまった。

「あ、いいの?じゃあいただきまーす!」

かぷ、という擬音が聞こえたような気がして、次に真っ赤な舌がちらと上の歯と下の歯の間から覗いて、それに何故か動揺したオレはプラスチックのスプーンに乗っていたアイスの欠片を落としてしまった。

「ごちそうさま。…て、うわ、一護勿体無いよ」

「え、ああそうだよなっ」

焦れば焦る程、掬ったアイスは落ちていった。

「あははっ、一護またこぼしてっ…ふふ、そんなに不器用だったっけ?」

可笑しそうにケラケラと笑うその笑顔は年相応のものより少しだけ幼く見えて、まるで昔に戻ったかのような錯覚さえした。

「…ったく、識てめーは笑い過ぎだ!!」

「あいたっ!」

無邪気な笑顔に少しだけ熱を持った顔を誤魔化すように、額を小突く。それでも収まらない笑いに、ふと尋ねてみた。

「なあ識、今、楽しいか?」

答えなんか、解りきっていたのに。
それでも君が笑ってくれるなら、オレはいくらでもその笑顔に騙されよう。
でも、もし我が儘を言っていいのなら――――――







普通に笑ってよ







そうだね、凄く楽しいよ。と静かに言った彼の顔は、やっぱりあの笑顔で。
そんな風にさせちまったのは誰なんだよ。なんて、何となく誰かは分かってるけど、ただ認めたくなくてそれを否定する。
その度に、コイツが傷ついてると知りながら。

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