僕らの終焉紀行 | ナノ
メスで解体中
「識」
優しい声。低くて、抑揚はないけれど、この声の持ち主は、本当は優しいことを僕は知っている。
「起きろ、識」
身体を揺さぶられる感覚に、目を覚ます。
≪起こし方が雑ではありませんか?≫
「ならばお前が起こせばよかっただろう」
≪私が起こしたら起こしたで不機嫌になるでしょう≫
目の前で、何故か火花が散っていた。
「…何やってんの、二人と…っ」
あまりの頭痛に、顔をしかめる。
≪霊力の消費に身体が慣れていないのでしょう≫
体力なくて悪かったな。
「大丈夫か、識」
翠の瞳が心配そうに細められる。
「あ、うん。大丈夫」
傍目には分からないような変化だけど、よく見ればちゃんと分かる。
「そうか…」
口元が柔らかく弧を描いた。顔立ちが整っているだけに、少しだけどきりとしてしまう。
≪…私が居ることを、忘れてませんか≫
呆れたような言ノ葉の声に、慌ててウルキオラから目を逸らした。
≪…で、どうしますか≫
ぽかんとする僕らに、言ノ葉は続ける。
・・
≪このままではまた、繰り返すばかりですよ≫
全てを見透かすような黒い瞳が細められた。
≪死に別れたくないのでしょう?≫
試すように笑った言ノ葉の声は、何時になく優しげだった。
メスで解体中
(一人で駄目なら二人で立ち向かえばいい)(二人で駄目なら三人で立ち向かえばいい)(武力で勝てないのならそれを上回る知恵を使えばいい)
(あなた達の強い想いなら)(出来るはず)
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