僕らの終焉紀行 | ナノ
錆び付いた斧
緩い修行をして、言ノ葉とお茶を飲んでいたら何故かグリムジョーに拉致られて、あの子のことを聞かされた。
「本当に居るの?」
「てめえはずっと引きこもってたからな」
「人を自宅警備員みたいに言わないでくれないかな」
あんな広い部屋貸す方が悪い。
「…どいてろ」
はいはい、と軽く返事をして数歩下がる。様子から察するに、壁を壊すんだろう。
≪…野蛮ですね≫
激しい音を立てて壁が崩れていく様を見て、言ノ葉が嫌そうに呟いた。
「腕一つであの怪力、格好良くない?」
≪そういうものですか?≫
「おい、何一人で喋ってやがる。…入るぞ」
酷い土埃の中を平然と歩くグリムジョーを見て、服の内側にしまった懐刀がチリンと、ふてくされたように鳴った。
「よォ」
≪…これは、酷い…≫
「ウルキオラの居ねえ間にチョロチョロ入り込んで」
言ノ葉が引いたように呟いたのを聞いて、目を凝らす。
「随分楽しそうなことしてんじゃねぇか」
「あー…」
一瞬誰だか判らなかった。
青く腫れた目元に赤くなった頬。
嫌いなはずなんだけど、自分以外が彼女を傷付けるのは少し、腹が立つ。
「あァ?」
「な…何よ!あんたこそ何しにこんなとこ――」
≪あら≫
ごり、と音がして、黒髪ツインの女の子が飛んでいった。
≪本当、野蛮ですね。…彼女、あそこにいたら危ないのでは?≫
僕を見て呆然としてるあの子を見て、言ノ葉が言う。
「…仕方ないなあ…」
もう一人のショートの子が消されそうになった瞬間、手で目を覆い、抱きかかえて安全地帯まで移動した。
「…識、くん…?」
「何で、ぼさっとしてたの」
今にも泣き出しそうな様子に溜息をつく。
「…あ…あんた…あたしたちにこんな事して…藍染様が黙っちゃいないわよ…」
≪…こちらもこちらで酷いですね≫
あーあ、と心底嫌そうに言ってるわりにはどことなく楽しんでるように思える。
「え…?ちょっと…まってよ、何してんの…」
震えながらも、石のように固まって目を逸らすことができない彼女を尻目に、酷い怪我はないか確認をしていく。
「うわ、腕折れてるよ…『完治』」
背筋が寒くなる。霊力が抜けていく感覚に、少しだけ冷や汗が出た。
「……ど…どうして…」
「左腕の借りだ」
≪…識、離れなさい≫
「…え…」
僕と彼女、どちらが言ったのか。何、と顔を上げたら彼女が宙に浮いた。
「何…を……」
「何を、だァ?ただ助けに来たとでも思ったのか?甘えんだよ」
≪彼女の腕、治せましたか?≫
言ノ葉の声が頭に響く。力の使い過ぎか随分と辛そうですよ、と微苦笑された。
「てめえへの借りは返した。これで文句は言わせねえ。…次はコッチの用事につきあってもらうぜ」
「…め、ちゃ…」
手を、離してあげて。そう言おうとして、地面に倒れる。
あれ、と思ったら、自分を呼ぶ声を聞いた直後、視界が急に暗くなった。
錆び付いた斧
(君を切るはずだった斧)(いつの間にか錆び付いて)(君を傷付けることが出来なくなってしまった)
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