僕らの終焉紀行 | ナノ
鋏で切れたらいいのに
言ノ葉は、斬魄刀と呼ばれるモノの一種だそうだ。
でも本人曰く、斬魄刀如きと同じにするな、だそうで実際はどうなのか僕にはさっぱり分からない。
「『粉砕』」
小さく呟くと、目の前にあったティーカップが砂のようにさらさらと崩れ落ちた。
「『再生』」
散らばった砂粒をかき集め、また呟く。
「…、…恐ろしいね」
ビデオが巻き戻るかのように、ただの砂粒が元のティーカップへと戻っていく。
それを見て、魔法のようだとは思えなかった。
≪この力を使ってその感想は初めていただきましたよ≫
くすくすという笑い声が頭に響く。
「ただ単に、今までの奴らが何も考えて無かっただけじゃないの?」
ため息を吐きながらソファーに深く座り込んだ。
「霊力の込め方のコツも分かったし、休憩にしようか…『緑茶』」
僅かな倦怠感を感じ、先程まで練習台となっていたティーカップを見る。中には香りの良い緑茶が入っていた。
「…まあ、便利と言えば便利なんだけど」
言った事が本当になるなんて普通は恐ろしいと思う。
≪…お茶くらい自分で用意なさい≫
「とか言いつつ自分も飲んでる癖に」
いつの間にか具現化した言ノ葉が隣りでお茶を啜っていた。
≪元を辿ればわたしの力ですから≫
そうですね、はい。
「…」
≪それで…何か、聞きたい事はありますか?≫
ずっと、気になっていた事がある。
「言ノ葉の力は言霊なんだよね?」
お茶を啜る言ノ葉の視線が此方を向く。
「ゼロからは何も生まれない。何かを生み出すにはそれ相応の対価を支払はなければいけないと、僕は思うんだ」
真面目な顔をする僕に、言ノ葉は科学的ですね、と言って苦笑した。
≪等価交換ですね、それは。今まで聞かれた事が無かったので上手く説明出来るか心配ですが…これは生命体に限りますが、霊力、或いは霊圧を込めた特殊な音≠媒介にし対象をコントロールする言わば暗示の延長線のようなものです≫
「無機物の場合は?」
≪そちらの場合は、これは正に言霊ですよ。力が込められた言葉が対象を新たに作り返る≫
「…?」
≪あまり、難しく考える必要はありませんよ。そもそも神話のような力です。科学的に証明などする者はいませんでしたから≫
あなたの場合、生活に多少便利な能力程度に考えていればいいのでは?
力使ってお茶を出した事を根に持っているのか、鈴の音のような声で言われた。
≪…、…あなたは、勤勉で努力家ですし、知力が優れています。口も、良く回るようです。…ですから、あまり不用意な、軽はずみな言動は慎んで下さいね≫
鋏で切れたらいいのに
(あなたが言ったように)(これはとても恐ろしい能力だから)
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