僕らの終焉紀行 | ナノ
切れなくなった剃刀
ただ、只管に刀を振るう夢を見た。
強くなりたくて、ただがむしゃらに刀を振るう。
何故強くなりたいのかも考えられないくらい、思考が鈍る中、それが使命とばかりに刀を振るい続ける。
「…」
そんな自分の姿を少し離れた所でぼんやりと眺める、そんな夢。
≪…強さを求めますか?≫
鈴の鳴るような声に、後ろを振り返る。
≪あなたは強くなりたいのですか?≫
十二単、とまではいかないけれど、ぼんやりと霞がかって見える平安貴族の女性のような人が僕をじっと見つめているのが見えた。
≪何故、強さを求めるのですか?≫
鈍器で頭を強く殴られたような感覚がした。どうしてだろう、理由が思い出せない。つい先程まで、覚えていた筈なのに。
何か、邪魔でもされているのだろうか。
≪…何も考えられない程に思考を鈍らせているはずなのですが、やはり素質はあるようですね≫
「あなたは、誰…?」
見たことはある。ただ、僕が思い出せないだけで。
きっと、目が覚めれば全て思い出せるけれど。
≪わたしは、あなたの力です≫
力…?僕には、力があるの?
≪ありますが、開花するか否かはあなた次第です≫
徐々に頭がはっきりしてきた。
「どうすればいい…?」
君を解放するには、夢のようにならない為には、何をすればいい?
「夢のようにならない為に、どうすれば強くなれるの?」
目の前にいる和装の女性を見つめ返す。
彼女は、先程のように霞がかってはいない。
「教えてよ。――――――――――――言ノ葉」
言ノ葉。彼女の名だ。
…やっと、思い出せた。
≪…わかりました。あなたに力の使い方を教えましょう≫
瞬間、ぐらりと視界が揺らいだ。
夢から覚める時の浮遊感に目を閉じる最後に見えた、口元だけで微笑む言ノ葉はどこか嬉しそうに思えた。
* * * *
≪……少々、悔しいですね≫
霧のように消えた彼が先程まで居た所を見て、ぽつりと呟いた。
≪彼の奥底に眠る意志が、わたしの力を打ち破るとは…≫
何重にもかけた催眠の言霊が、こうもあっさりと破られるなんて。
≪本当、末恐ろしい子…≫
言ノ葉。名前の通り、言葉を使う斬魄刀。死神の世界では、わたしは鬼道と呼ばれる能力に分類されるらしいけれど。
元来、言霊なんてものは誰にだって使えていた。ただ、忘れてしまっているだけで。それなのに、忘れられた力は、いつしか特別なものにされてしまった。
≪使える者がいないから、次第に小さかった力は大きくなってしまう≫
だから微弱な力でも人一人を殺めてしまえる。人は斬れないけれど、容易く命を奪える。よく切れる刀だ。
でも、時々、本当に時々、生まれながらにして使い方を覚えている者がいる。
その者が、使い方をわすれても唱えるだけで力を行使できるように考案したものが、死神の鬼道。
おそらく彼は、生まれながらに使い方を覚えていた者なのだろう。彼の血縁者も、似た力を持っている。
≪流石、双子…と言うべきでしょうか≫
彼が聞いたらきっと微妙な顔をするだろう。
切れなくなった剃刀
(人斬り刀は捨てましょう)(もっと、よく斬れる刀を渡すから)
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