僕らの終焉紀行 | ナノ
包丁で刺し殺した
何か、気に障ったのだろうか。
「失礼、しました」
一礼した後、何も考えず響転で駆け出していた。
苦しくて、息が出来ない。
「識とは、仲良くやってるようだね。…でも、忘れてはいけないよ」
頭の中で先ほどの藍染様の声が再生される。
「識は人間で、お前は虚だということを」
そんなこと、改まって言われるまでもない。一番自分が分かっている。
それなのに、消したくても、耳にこびり付いて離れない。
「―――ウルキオラ」
否定できない、その声が。聞きたくないのに。頭から消えてくれない。
「…くそっ」
苛々として、響転のスピードをまた上げた。
何処か、遠くへ行ってしまいたい。
いっそ、識を連れて逃げてしまおうか。
「ウルキオラ…!?」
扉の先にいた識に、勢いはそのままに飛びかかる。
「うぐ、わっ」
弾むようにベッドまで飛んだ衝撃で、シーツがまた皺になった。
「…識」
「ちょっ、ウルキオラ…?」
きつく抱きしめたままじっとしていると、諦めたのか背中に手が回された。
「…識」
「何か、あった?」
その言葉に、藍染様を思い出す。
「……いや、何でもない」
包丁で刺し殺した
(こんなに苦しいのならば)(いっそ心なんて)(気付かなければよかったなんて)(気付かせてくれた識だけには言えない)
- 39 -
← | →