僕らの終焉紀行 | ナノ

天使の断末魔






「――入るぞ」

「…」

「食事だ。食え」

毎日三度の決まった食事を与える為、暗い目をした女に声をかけた。
何か言いたげにじっと俺を見るその目を視界から消して、部屋の扉を開ける。

「次に俺が来るまでには――」

「―…、何処に、いるの?」

小さく聞こえた名に、反射的に振り返った。

「識くんは、何処にいるの」

此処のどこかにいるんでしょう?と、先程まで暗い目をしていたのに、今は半ば睨むように言った女の強い目に僅かに驚く。
おそらく藍染様が喋ったのだろう。同じような少年が此処にいると。
同級生か何かだろう。ただ聞いただけにしては、この女は識を知っているかのような素振りをしている。

「…何故」

「随分と、大切にしてるって聞いたから」

「そうじゃない。…何故お前が識を知っている」

目線だけを向けて尋ねると、そう、と小さく呟いて微かに笑みを浮かべた。

「何も知らないのね」

「…どういう、意味だ」

目を眇め、女を見る。

「意味なんて無いよ」

そう言うと、もう話しは終わったとばかりに女は窓の外に目を向けた。

「おい――――」

「ウルキオラ様、藍染様がお呼びです」

「…分かった。今行く」

「…」

扉の外から、まるでタイミングを見計らったかのように藍染様の使いに声をかけられ、小さく舌打ちをして逃げるように響転でその場を後にした。



  * * * *




しばらくして、完全に気配が無くなったのを確認してからへたり込むようにして崩れ落ちる。

「……、………、……はぁ」

ため息をつくと幸せが逃げると言うけれど、自分の場合は既に裸足で逃げられたような気さえするからそんなジンクスは気にしない。

「…識、くん」

最後に見た寝顔を思い出す。
聞いたのは、本当に偶然だった。

「人質、だよね」

識くんは今までの事に関わっていたわけではないから、情報が一番少ないのは識くんだ。霊圧とか、そういった能力抜きでなら分からないけれど、現時点で識くんが一番人質に適してる。

「…守らなきゃ」

もう、本人は覚えていないだろうけれど、昔から私は何度も識くんに助けられていた。
もう一生会えないと思って忘れようとしてた時期も確かにあったけど、でも、それでもいつだって守ってくれていた。高校に入って先輩に絡まれた時だって、誰も気がついてくれなかったのに、識くんだけが気がついてさり気なく助け出してくれた。
私のことが、嫌いなのに。一生憎まれても仕方ないことを、過去にしているのに。

「だから、今度は私が助けるよ」

弱さも甘さも捨てよう。もう、お別れなんてしなくてもいいように。











天使の断末魔












(助けを待ってるだけのお姫様)(そんなものに)(私は絶対になりたくない)

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