僕らの終焉紀行 | ナノ
破壊する絶望
「識…」
まるで存在を確かめるかのように、冷たい唇が押しつけられている。ただそれだけの、子供のような拙い口付けなのに。
「…識、」
その甘さを含んだ低い声で名前を囁かれる度に、頭が麻痺しそうになる。
「ウルキオラ…?」
拉致同然に連れてこられてから、どれだけの時間が経ったのかは分からない。けれど、定期的にこうして口を合わせるだけの行為を求めてくることと、自分の体内時間でそれなりに時間が過ぎたということは予測出来た。
「…っ」
抱き締められたまま、ゆっくりと白いシーツに押し倒される。
「…夢を、見る」
首筋に当たった吐息に反応するも、ぽつりぽつりと、呟くように話し出したウルキオラの声に耳を傾ける。
顔に当たるウルキオラの黒い髪を梳かしながら、宥めるように撫でた。
「…お前が、死ぬ夢を」
力が込められ、きつく抱かれた肩がみしりと音を立てる。
「その夢での俺は、お前を護れず死んでいった」
曰く、赤黒い閃光で全てが消えてしまう夢。
それは、以前僕が見ていた夢と同じもので。
「お前を此方に連れて来てからずっと、少し目を瞑るだけで、記憶のように鮮明に思い出す」
自分の場合はそれを平行世界での出来事と仮定したけれど。ウルキオラは、これから起こり得る未来と仮定したのだろうか。
撫でる手が止まったことに気付かず、もしかしたら、と続けた。
「今だって、目を開けたらお前が居ないかもしれない」
声が、少し震えている。それ程までに彼は僕のことを想ってくれているのだろうか。
「ウルキオラ、」
とくとくと、心臓が早く鳴る。
嬉しいと、思ってしまった。心がないと言った彼を乱せたことを。
「全てが俺の夢の中の出来事で、目が覚めれば、お前は―――」
なんて顔をしているんだろう。無表情だけれど、何だか今にも泣き出しそうだ。
「――ウルキオラ」
上にいるウルキオラごと身体を回転させ、そっと、唇を合わせる。
「大丈夫。…僕は、ちゃんとここに居る。ウルキオラの傍に居るから」
だから、そんな泣き出しそうな顔なんてしないで。
「…お前が俺の前から消えると思うと、心臓が酷く痛む」
少しだけ驚いたような表情をしたあと、後頭部へと回した手で僕の顔を胸に押し付けた。
「それが、心、だよ」
小さく笑って見上げると、ウルキオラは一言、そうかと、呟いた。
破壊する絶望
(たとえこの先僕がどうなろうと)(今、僕に縋る彼を)(心底愛しいと思った)
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