僕らの終焉紀行 | ナノ
手にした残像
なんとなく、ただ見ていた。
最初はただ気まぐれで見ていただけだったのに、いつしか、無色透明のそれが染まっていくのが面白くて。
気がつけば、目が離せなかった。
時が過ぎる度、知識が増える度、感情を覚える度、くるくると変わる色彩は、わたしの眼をいつも楽しませてくれる。
「僕には帰る場所も、逃げる場所もない」
水のように透明だったそれは鈍色に変わり、今では淡い色に変わった。
見ていて優しくなれる、暖かい色。
「だって、僕が帰る場所を作ってくれたのはあなただから」
帰る場所は、あの子にもあった。
ただ、あの子は彼と共に居たいが為に全てを捨てた。
暖かい居場所も、優しく見守ってくれる大人も、親友さえも、全て。
愚かだと、言う者は多かった。
「それでも、早く逃げろ識」
けれどわたしは、その選択は間違ってはいないと思っている。
正しいとも言えないけれど、わたしはこの答えを出すのに、どれ程彼が悩んだか知っているから。
「っイヤだ!
…もし、もしも僕が帰る場所があるとしたらそれは、あなたの所なんだよ、ウルキオラ」
「…やはりお前は、変わった人間だ」
「自覚はしてる」
柔らかく笑ったあの子が、淡い色が、消えていく。
忌まわしい赤い光に包まれて、霞むように消えていく。
心を手にすることが出来た彼も、直に消えてしまうだろう。
≪……≫
本当は護りたかった。生きて二人で共に歩みたかった。
二人の感情が、想いが、洪水のように流れ込んでくる。
人の死を、初めて悲しいと思った。
だから、わたしは賭けてみよう、彼らに。
≪我が聲は神の聲、我が言葉は神の言葉≫
わたしは言葉。
言の葉を司るモノ。
≪巡る時よ、もう一度同じ刻を刻め≫
わたしの自由を対価に、あの子たちの時間を死神から取り戻そう。
再び時を刻むかは、彼ら次第だとしても。それでも久方振りに、閉じた未来が見てみたくなった。
≪―――我が自由を対価に≫
高まりつつある崩玉の力も合わされば、沢山の時間を巻き戻せる。
手にした残像
あの子が主なら、きっと退屈はしないはず。
(それは水面に石を投じてみた時と似た感覚)(さあ、)(はやくはやく)(わたしを呼んで)
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