僕らの終焉紀行 | ナノ
情欲
お前を好く人間などいなくなればいいと、何度も思った。
そうしたら俺だけのものになる訳ではないと、知っていたけれど。
真綿でゆっくり首を絞めるように閉じ籠めて、俺だけが愛し俺だけの為に存在すればいいと何度も思った。
そうして、最後は…。
薄い布が幾重にも重なった覆いを開く。
白い部屋で白い制服に身を包み、白いシーツの敷かれた白いベッドに身を横たえている、自分が攫った少年。
ベッドが軋む音を聞きながら、横たわる識の上に見下ろすように覆い被さった。
「識…」
白く柔らかい頬から後頭部へと手を滑らせる。
「これでも目覚めないか」
伸ばした腕を曲げ、顔を息がかかる寸前まで近付ける。
一瞬、微かに震えた目蓋に笑みがこぼれた。
「識、」
暴れないように腕をシーツに縫い付け、唇をそっと押し付ける。
「何、してるのウルキオラ」
睫毛が震え、朽ち葉色の瞳が開かれた。
「狸寝入りをしているお前が悪い」
硝子のようなそれがすっと細まり、眉間に皺が出来た。
「そうじゃなくて。何で、」
「意識を失わせ拉致同然に連れてきたのか」
「…」
「…すまない」
時折見せる、対応に困ったような顔。
それから顔を背けるように、拘束していた腕から手を離し背中に滑り込ませて顔を首筋に埋めた。
微かに香る甘い匂いが鼻をかすめる。
「…識…」
見た目よりずっと小さく華奢な身体。
ため息と共に細い腕が自分の背に回ったのを感じ、小さく笑みを浮かべた。
愛情と憎悪と殺意と情欲
(一度でも欲しいと思ったら)(坂を転げ落ちるように止まらなくなった)
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